ラズパイ5でWindows 11は動く?インストール方法から実用性まで徹底検証!
Raspberry Pi 5(ラズパイ5)というパワフルなシングルボードコンピュータで、もし使い慣れたWindows 11が動いたら素晴らしいと思いませんか。私もその可能性に魅了され、ラズパイ5でWindows 11を動作させるためのあらゆる方法を徹底的に調査し、実践しました。
この記事では、ラズパイ5にWindows 11をインストールするための具体的な方法から、そのパフォーマンス、そして日常的な使用に耐えうるのかという実用性まで、私の経験を交えて詳しく解説します。
結論から言うと、これは「ロマン」あふれる挑戦ですが、実用には大きな壁が立ちはだかります。
なぜ公式サポートがない?ラズパイでWindowsが動かない理由
ラズパイでWindowsを動かそうという試みは、公式にはサポートされていません。これは技術的な課題や、関係する企業間の戦略的な判断が複雑に絡み合っているからです。私が調査した結果、その背景にはいくつかの明確な理由がありました。
Microsoftとラズパイの微妙な関係
かつてMicrosoftは、ラズパイ2や3向けに「Windows 10 IoT Core」という特別なバージョンを提供していました。これはGUIを持たない軽量版OSで、組み込みシステム開発などを目的としていました。しかし、多くの人が期待するような、普段使いのデスクトップPCとしてのWindows体験とは大きく異なるものです。
その後、MicrosoftはIoT戦略を変更し、後継となる「Windows IoT Enterprise」ではラズパイのサポートを打ち切りました。つまり、現在Microsoftからラズパイ向けに提供されているデスクトップ版Windowsは存在しないのです。
最大の壁|Broadcom製チップのドライバー問題
ラズパイでWindowsが公式にサポートされない最も根本的な原因は、ハードウェアの心臓部であるBroadcom製チップにあります。PCがOSを動かすためには、CPUやWi-Fi、LANポートといった各部品を制御するための「ドライバー」というソフトウェアが必須です。
Windowsをラズパイで完全に動作させるには、BroadcomがWindows用の公式ドライバーを開発し、提供する必要があります。しかし、現状Broadcomからそのようなドライバーは提供されていません。Microsoftもドライバーなしにハードウェアをサポートすることはできず、このドライバーの不在が、公式サポートが実現しない最大の障壁となっています。
ラズパイ5にWindows 11をインストールする2つの方法
公式サポートがない中でも、コミュニティの熱心な開発者たちによって、ラズパイ5でWindows 11を動かすための方法が模索されています。私が試した中で、主流となっているのは2つのアプローチです。
【上級者向け】ベアメタルインストール|直接インストールするロマンの道
一つ目は、ラズパイ5のストレージに直接Windows 11をインストールする「ベアメタル」方式です。これはPCにOSをインストールするのと同じ方法ですが、ラズパイでは非常に高度な知識と手順が求められます。
この方法では、UEFIという特殊なファームウェアを準備し、コミュニティ製のツールを使ってインストールメディアを作成します。Wi-FiやLANポートがドライバー不在で機能しないため、インストールの最終段階ではオフラインで設定を完了させる特殊なコマンド操作も必要です。インストール後も、インターネット接続や音声出力には別途USB接続のアダプターが必須となり、まさに技術的な挑戦を楽しむ上級者向けの「ロマン」あふれる道と言えます。
【初心者向け】仮想化(BVM)|手軽に試せる現実的な道
二つ目は、Raspberry Pi OSの上でWindows 11を仮想マシンとして動かす「仮想化」方式です。この方法を簡単に行うために、「Botspot Virtual Machine(BVM)」という便利なツールが開発されています。
BVMを使えば、いくつかのコマンドを実行するだけで、Windows 11のダウンロードから設定までを自動で行ってくれます。最大の利点は、ドライバー問題を回避できる点です。仮想マシンはホストであるRaspberry Pi OSの機能を借りるため、Wi-FiやLAN、音声出力もそのまま利用できます。Windowsを試してみたいという初心者の方には、こちらが最も現実的で簡単な方法です。
徹底比較|ベアメタル vs 仮想化、どっちがいい?
ラズパイ5でWindows 11を動かす二つの方法、ベアメタルと仮想化。私が両方を試した経験から、それぞれのメリット・デメリットを比較し、どちらがあなたにとって良い選択肢か検証します。
メリット・デメリットで見る比較
どちらの方法にも長所と短所があります。あなたの目的や技術スキルに合わせて選ぶことが重要です。以下の表に、私が感じた両者の特徴をまとめました。
特徴 | ベアメタルインストール | 仮想化 (BVM) |
インストール難易度 | 高度(専門知識が必須) | 中程度(スクリプトで自動化) |
オンボード機能 | ほぼ全滅(Wi-Fi, LAN, 音声など) | すべて機能する |
追加ハードウェア | 必須(USB-LANアダプタなど) | 不要 |
パフォーマンス | CPU性能は良好だが、他は不安定 | 安定しているが、全体的にやや遅い |
手軽さ | 低い | 高い |
おすすめユーザー | 技術的挑戦を楽しみたい上級者 | 手軽にWindowsを試したい初心者 |
パフォーマンスと実用性の真実
パフォーマンスに関しては、興味深い結果が出ています。純粋なCPUの計算能力を測るベンチマークテストでは、仮想化(BVM)の方が高いスコアを記録します。しかし、私が実際に操作した体感速度では、ウェブブラウジングなどの応答性はベアメタルインストールの方が速く感じられました。
この逆転現象は、OSの「体感速度」がCPU性能だけでなく、データの読み書き速度(I/O)に大きく影響されるためです。ベアメタルはドライバーが不完全なためシステム全体にボトルネックを抱えつつも、直接ハードウェアを動かすため一部の応答が速くなります。対して仮想化は、動作は安定していますが、常にRaspberry Pi OSを介するため、わずかな遅延が生じます。
結論として、どちらの方法も日常的なメインPCとして使うには力不足です。ウェブページの表示に時間がかかり、動画再生もカクつく場面が多く、実用性は低いと言わざるを得ません。これはあくまで「ラズパイでWindowsが動く」という事実を楽しむためのプロジェクトです。
もう一つの選択肢|Raspberry Pi OSでWindowsアプリを動かす
Windows OSそのものを動かすのではなく、Raspberry Pi OSの上で特定のWindowsアプリケーションだけを実行するという、もう一つの道があります。これもまた、技術的な工夫によって実現されています。
WineとBox86/64の仕組み
この方法の鍵となるのが、「Wine」と「Box86/64」という二つのソフトウェアです。ほとんどのWindowsアプリはx86というCPUアーキテクチャ向けに作られていますが、ラズパイのCPUはARMアーキテクチャであり、本来は互換性がありません。
ここでBox86/64が、x86の命令をARMの命令にリアルタイムで翻訳する「通訳」の役割を果たします。さらにWineが、Windowsのシステム的な要求(APIコール)をLinuxのものに変換します。この二つの連携によって、あたかもラズパイ上でWindowsアプリがネイティブに動いているかのように見せかけるのです。
どこまで動く?互換性と限界
この方法を使えば、すべてのWindowsアプリが動くわけではありません。私が試したところ、古い世代のPCゲームや、メモ帳のような比較的シンプルな構造のソフトウェアは驚くほど快適に動作しました。
しかし、Microsoft OfficeやAdobe Photoshop、Premiere Proといった最新の高度なソフトウェアは、その複雑さから動作しません。これらのアプリを使いたい場合は、Web版を利用するか、Linuxネイティブの代替ソフト(LibreOfficeやGIMPなど)を使うのが現実的な解決策です。あくまで「特定の古いアプリを動かす」ための選択肢と考えるべきです。
まとめ|ラズパイ5でWindows 11は「ロマン」だが実用性は低い
私がラズパイ5でWindows 11を動かす挑戦を通じて得た結論は、「技術的なロマンは満たされるが、実用的なデスクトップPCの代替にはならない」というものです。インストールプロセスの複雑さ、ドライバー不足による機能制限、そして満足とは言えないパフォーマンスは、日常使いのハードルを非常に高くしています。
皮肉なことに、Qualcommの高性能チップ登場により、世の中のWindows on ARMエコシステム自体は大きな盛り上がりを見せています。しかし、ラズパイはその流れから取り残されているのが現状です。
ラズパイでWindowsを動かすという旅の本当の価値は、完璧なデスクトップ環境を手に入れることではありません。コミュニティの知恵を借りながら試行錯誤する過程そのものに、面白さと学びがあります。これは、メーカー精神を体現する、知的で魅力的な挑戦なのです。