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ラズパイ5でAndroidを動かす!インストールから実用まで徹底解説

草壁シトヒ
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Raspberry Pi 5の登場により、これまで技術的な挑戦とされてきた「ラズパイでAndroidを動かす」ことが、非常に現実的な選択肢となりました。その圧倒的なパフォーマンスは、単にOSが起動するだけでなく、快適な操作感さえもたらします。しかし、その導入にはいくつかのハードルと知っておくべき重要なポイントが存在します。

この記事では、私が実際にラズパイ5でAndroidを試した経験を基に、どのAndroidを選べば良いのかという基本的な知識から、具体的なインストール手順、そして気になる性能や実用的な活用方法まで、全ての情報を網羅して徹底的に解説します。この記事を読めば、あなたもラズパイAndroidの世界に足を踏み入れ、その可能性を最大限に引き出せるようになります。

ラズパイでAndroidを動かす前に知っておきたい基礎知識

ラズパイでAndroidを動かす旅を始める前に、いくつか基本的な知識を押さえておく必要があります。どのAndroidディストリビューションを選ぶべきか、そしてラズパイでAndroidを使う上での最大の壁は何か。これらを理解することが、プロジェクト成功への第一歩です。

ラズパイで使えるAndroidの種類と比較|LineageOS vs emteria.OS

ラズパイ上で動作するAndroidは、主にコミュニティベースのものと商用のものの2種類に大別されます。それぞれに特徴があり、目的に応じて選ぶことが重要です。

特徴KonstaKANG (LineageOS/AOSP)emteria.OS
主要開発元コミュニティ (KonstaKANG氏)emteria GmbH (企業)
ライセンス非商用商用 (プロプライエタリ)
コスト無料フリーミアム (3台まで無料、以降有料)
ターゲットホビイスト、学習者、開発者産業用、組み込み製品、商用展開
インストール手動でイメージをダウンロードし書き込みRaspberry Pi Imagerから直接選択
特徴最新Androidへの追従が速い、高いカスタマイズ性リモート管理(MDM)やキオスクモードなど商用機能が豊富

私がまず試したのは、開発者の間で最も有名なKonstaKANG氏が提供するLineageOSです。これはAndroidのオープンソースプロジェクト(AOSP)をベースにしており、最新のAndroidバージョンにいち早く対応するのが魅力です。しかし、その自由度の高さと引き換えに、多くの設定を手動で行う必要があり、まさに「上級者向け」と言えます。

一方、emteria.OSは商用利用を目的としたディストリビューションです。公式のRaspberry Pi Imagerから簡単にインストールでき、導入の手軽さが魅力です。産業用のキオスク端末やデジタルサイネージなど、安定性とサポートを重視するプロの現場で選ばれています。

Google Playストアは使える?GMSの大きな壁

ラズパイAndroidを語る上で避けて通れないのが、Google Mobile Services (GMS)の問題です。GMSとは、Google PlayストアやGmail、GoogleマップといったGoogle製アプリとその動作に必要なバックグラウンドサービスの総称です。

市販のスマートフォンはGoogleの認証を受けているため、これらのサービスが最初から利用できます。しかし、ラズパイ向けのAndroidディストリビューションは、どれもこの認証を受けていません。結果として、箱から出してすぐにPlayストアから好きなアプリをダウンロードする、という当たり前の体験ができないのです。

LineageOSなどのコミュニティビルドでは、有志が作成したGApps(Google Apps)パッケージを特殊な手順で手動インストールすることで、限定的にGoogleのサービスを利用できます。しかし、この手順は複雑で、デバイスがGoogleに認証されていない旨のエラーに直面することも少なくありません。このGMSの不在こそが、ラズパイAndroidが一般的なスマホの代替になりきれない最大の理由です。

どのラズパイモデルを選ぶべき?|モデルとAndroidバージョンの互換性

どのラズパイモデルで、どのバージョンのAndroidが動作するのかを知ることは、計画を立てる上で不可欠です。基本的には、新しいモデルほど新しいAndroidバージョンがサポートされます。

AndroidバージョンRaspberry Pi 5Raspberry Pi 4 (B, 400, CM4)Raspberry Pi 3 (B/B+)
Android 15KonstaKANG, emteria.OSKonstaKANG, emteria.OS (予定)サポートなし
Android 14KonstaKANG, emteria.OSKonstaKANG, emteria.OSサポートなし
Android 13KonstaKANGKonstaKANG, emteria.OSサポートなし
Android 10サポートなしKonstaKANGKonstaKANG
Android 7サポートなしサポートなしemteria.OS

最新のラズパイ5は、Android 15までサポートされており、最高のパフォーマンスを求めるなら間違いなく第一選択肢です。私が実際に触った感触でも、ラズパイ4とは比較にならないほど快適に動作します。ラズパイ4も依然として強力なプラットフォームで、幅広いAndroidバージョンが利用できます。

一方、ラズパイ3のサポートは限定的で、それ以前のモデルでは現代的なAndroidを動かすのは非現実的です。快適な動作のためには、最低でも4GBのRAMを搭載したモデルを強く推奨します。

ラズパイ5へAndroidをインストールする手順

基礎知識を理解したところで、いよいよ実践編です。ここでは、ラズパイ5にAndroidをインストールする具体的な手順を、初心者向けと上級者向けに分けて解説します。

準備するもの|推奨スペックと周辺機器

システムの不安定さは、OSの問題ではなく不適切な周辺機器が原因であることがほとんどです。安定したAndroid環境を構築するために、以下の機材を揃えることを強く推奨します。

  • 本体|Raspberry Pi 5 (4GB以上のRAM推奨)
  • ストレージ|高速なmicroSDカード (U3/A2規格、32GB以上) または NVMe SSD
  • 電源|公式の5V/5A USB-C電源アダプタ
  • 冷却装置|公式ケースファンやアクティブクーラー
  • その他|USBキーボード、マウス、HDMI対応モニター

特に電源と冷却は重要です。ラズパイ5は要求する電力が大きく、高負荷時にはかなりの熱を発します。仕様を満たさない電源や不十分な冷却は、性能低下やフリーズの直接的な原因になります。

【初心者向け】emteria.OSの簡単なインストール方法

最も手軽にラズパイAndroidを体験したいなら、emteria.OSが最適です。公式のRaspberry Pi Imagerを使えば、数クリックでインストールが完了します。

  1. PCでRaspberry Pi Imagerを起動します。
  2. 「OSを選ぶ」から「Freemium and paid-for OS」を選択します。
  3. リストの中から「Android by emteria」を見つけ、対象モデル(RPi 5)とAndroidバージョンを選びます。
  4. 書き込み先のmicroSDカードを選択し、「書き込む」ボタンをクリックします。
  5. 書き込み完了後、SDカードをラズパイ5に挿して起動すれば、Androidが立ち上がります。

この手軽さは、商用製品ならではの洗練された体験です。複雑な設定を避けたい初心者の方には、emteria.OSから始めることをお勧めします。

【上級者向け】LineageOSのインストールと初期設定

より深いカスタマイズや最新Androidの機能を追求したい開発者やホビイストには、KonstaKANG氏のLineageOSが最高の選択肢です。

  1. KonstaKANG氏のウェブサイトから、使用するラズパイモデル(rpi5)とAndroidバージョンに合ったイメージファイル(.zip)をダウンロードします。
  2. Raspberry Pi Imagerを起動し、「OSを選ぶ」で「カスタムイメージを使う」を選択し、ダウンロードしたzipファイルを指定します。
  3. 書き込み先のmicroSDカードを選択し、「書き込む」をクリックします。
  4. 書き込み完了後、SDカードをラズパイに挿して起動すると、LineageOSが立ち上がります。

これだけでは、Google Playストアもroot権限もありません。これらの機能を実現するには、さらに追加の作業が必要です。

TWRPを使ったGApps(Google Play)の導入

LineageOSにはTWRP(Team Win Recovery Project)というカスタムリカバリー環境がプリインストールされています。これを使って、Googleの各種アプリ(GApps)をインストールします。

  1. MindTheGappsなどのサイトから、LineageOSのバージョンとアーキテクチャ(arm64)に合ったGAppsのzipパッケージをダウンロードし、USBメモリに保存します。
  2. ラズパイを再起動し、TWRPリカバリーモードで起動します。
  3. TWRPの「Install」メニューから、USBメモリに保存したGAppsのzipファイルを選択し、スワイプしてインストールを実行します。
  4. 重要|インストール完了後、必ず「Wipe」メニューから「Factory reset」を実行します。これによりデータは消去されますが、GAppsを正常に動作させるために必須のステップです。
  5. システムを再起動すると、初期設定画面にGoogleアカウントのログインが追加されています。

Magiskを使ったroot化

システムファイルを直接改変せずにroot権限を取得するには、Magiskというフレームワークを使用します。手順はGAppsの導入と似ていますが、少し複雑です。

  1. KonstaKANG氏のサイトから、ビルドに対応したMagiskのzipファイルと、Magisk管理アプリのapkファイルをダウンロードします。
  2. GAppsと同様に、TWRPリカバリーモードでMagiskのzipファイルをインストールします。
  3. システムを再起動した後、ファイルマネージャーアプリなどを使って、Magiskのapkファイルをインストールします。

これらの手順は、まさに「上級者向け」たる所以です。一つ手順を間違えるとシステムが起動しなくなるリスクも伴いますが、乗り越えればラズパイAndroidの真価を引き出せます。

ラズパイAndroidの実力は?性能と活用事例を徹底レビュー

インストールが完了したところで、最も気になるのはその実力です。ラズパイ5で動くAndroidはどのくらい快適なのか、そして具体的にどのようなことに使えるのかを、私のレビューを交えて解説します。

ベンチマークで見るラズパイ5の圧倒的性能

ラズパイ5の登場は、ラズパイAndroidの体験を劇的に変えました。CPUはラズパイ4のCortex-A72からCortex-A76に、GPUはVideoCore VIからVIIへと進化し、様々なベンチマークで2倍から3倍の性能向上を記録しています。

指標Raspberry Pi 4Raspberry Pi 5性能向上率
CPUクロック1.8 GHz (Cortex-A72)2.4 GHz (Cortex-A76)+33% (クロック)
Geekbench 5 (Multi)約864約1,560+81%
Geekbench 5 (Vulkan)約808約2,426+200%

この数字が示す通り、ラズパイ5上のAndroidはUIのアニメーションが滑らかで、アプリの起動も高速です。ラズパイ4では「動く」というレベルだったものが、ラズパイ5では「快適に使える」レベルに到達したと断言できます。特にGPU性能の向上が著しく、グラフィカルなアプリや軽いゲームなら十分に楽しめます。

メリット|ラズパイでAndroidを動かす魅力とは

GMSの問題などデメリットもありますが、それを上回るユニークなメリットが存在します。特に、特定の目的に特化したカスタムデバイスの作成において、ラズパイAndroidはその真価を発揮します。

カスタムタブレットやカーナビの自作

ラズパイとDSI接続のタッチスクリーンを組み合わせれば、自分だけのオリジナルAndroidタブレットを製作できます。Androidは元々タッチ操作に最適化されているため、Raspberry Pi OSなどのデスクトップLinuxよりも遥かに直感的なユーザー体験を実現できます。

同様に、車載システムへの応用も非常に魅力的です。Googleマップなどの豊富なナビゲーションアプリやメディア再生機能を活用して、カスタムカーナビや、有線のAndroid Autoを無線化するブリッジデバイスを構築するプロジェクトは人気があります。

デジタルサイネージとしての活用

店舗の広告や案内を表示するデジタルサイネージの分野でも、ラズパイAndroidは強力な選択肢です。emteria.OSが提供するキオスクモードを使えば、デバイスを特定のアプリやウェブサイトにロックダウンできます。

Googleのサービスから切り離されているため管理がシンプルになり、低コストで多数のスクリーンを展開するようなプロジェクトに最適です。私がもし商業施設向けのサイネージを開発するなら、emteria.OSを搭載したラズパイを選ぶでしょう。

デメリット|実用上の注意点と限界

高いポテンシャルを秘める一方で、万能ではありません。一般的なPCやスマホの代わりとして使おうとすると、いくつかの大きな壁にぶつかります。

デスクトップやHTPCとしての利用は非推奨

マウスやキーボードを接続してデスクトップPCのように使うことも一応できます。しかし、多くのAndroidアプリはタッチ操作や縦画面を前提に設計されており、デスクトップ環境での使い勝手は洗練されていません。

ホームシアターPC(HTPC)としての利用も同様です。Android TV版のLineageOSは存在しますが、Netflixなどの主要なストリーミングアプリは、DRM(デジタル著作権管理)の問題や認証エラーで正常に動作しないケースが多く報告されています。安定したメディアセンターを求めるなら、素直に安価なAndroid TVデバイスを買うか、ラズパイにLibreELECのような専用OSを入れる方が賢明です。

システムの不安定さと対処法

フォーラムで報告されるクラッシュやフリーズの多くは、前述した不適切なハードウェアが原因です。高品質な電源、高速なストレージ、そして十分な冷却。この3つは、安定動作のための絶対条件です。

特にストレージは重要で、低速なSDカードはシステム全体の足を引っ張ります。頻繁な読み書きが発生するため、SDカードの消耗も激しいです。長期的な安定性を求めるなら、NVMe SSDから起動するように設定することをお勧めします。これらの対策を講じることで、システムの信頼性は格段に向上します。

まとめ

ラズパイ5でAndroidを動かすことは、もはや単なるハッカーのお遊びではありません。その高いパフォーマンスとAndroidの巨大なエコシステムを組み合わせることで、ユニークで実用的なカスタムデバイスを生み出す強力なプラットフォームへと進化しました。

しかし、その道は平坦ではありません。GMSの不在という大きな壁があり、一般的なPCやスマホの代替にはなりません。成功の鍵は、「何を目指すか」を明確にすることです。

  • 学習や趣味で深く楽しみたいホビイスト|KonstaKANG氏のLineageOSに挑戦し、手動設定のプロセスそのものを楽しみましょう。
  • 製品開発や商用利用を考える開発者|emteria.OSを選び、その安定性とサポート、商用機能を活用しましょう。
  • 手軽なメディアプレーヤーやPC代替を探している一般ユーザー|このプラットフォームは避け、目的に合った専用デバイスの購入を検討しましょう。

ラズパイAndroidは、「脱Google」という特性を受け入れ、特定のタスクに特化したデバイスを構築するプロジェクトで最も輝きます。この記事が、あなたの挑戦の成功に向けた確かな一歩となることを願っています。

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