【2025年版】『Orange Pi』と『Raspberry Pi』を徹底比較!あなたに最適なボードはどっち?
シングルボードコンピュータ(SBC)の世界は、今や単なるホビイストの遊び場ではありません。プロの現場や高度な個人プロジェクトにも耐えうる、強力なプラットフォームへと進化を遂げています。
この市場で長年王者に君臨する『Raspberry Pi』と、その強力な対抗馬として名高い『Orange Pi』の競争は、2025年現在、最高潮に達しています。どちらのボードがあなたのプロジェクトに最適なのか、私が長年の経験から徹底的に比較し、結論を出します。この記事を読めば、あなたにとって最高の選択が何であるか、明確に理解できます。
スペックとハードウェアの徹底比較
SBCを選ぶ上で、ハードウェアの仕様を理解することは全ての基本です。ここでは、Raspberry Pi 5とOrange Pi 5シリーズの心臓部を分解し、そのアーキテクチャの違いを明らかにします。
頭脳対決|SoC(System on a Chip)の性能差
ボードの性能を決定づける最も重要な部品がSoCです。Raspberry Pi 5はBroadcom BCM2712、2.4GHzで動作するクアッドコアのArm Cortex-A76 CPUを搭載しています。これは前世代のPi 4から2〜3倍の大幅な性能向上です。
対するOrange Pi 5シリーズは、Rockchip RK3588/RK3588Sを採用しています。こちらは4つの高性能Cortex-A76コアと4つの高効率Cortex-A55コアを組み合わせた8コアのbig.LITTLEアーキテクチャです。このコア数の差が、特にマルチスレッド処理においてOrange Piの圧倒的な優位性の源泉となっています。
グラフィックス(GPU)では、Raspberry Pi 5がVideoCore VIIを、Orange Pi 5シリーズがArm Mali-G610 MP4を搭載しています。生の性能ではMali-G610が優位ですが、実際のパフォーマンスはドライバの成熟度に左右されます。
決定的な違いはAI処理を担うNPU(ニューラルプロセッシングユニット)の有無です。Orange Pi 5シリーズは最大6TOPSの性能を持つNPUを標準で搭載しており、追加投資なしでエッジAI開発を始められます。Raspberry Pi 5はNPUを内蔵しておらず、AI処理には別途AI HAT+のような拡張ボードが必要です。
記憶と速度|メモリとストレージの選択肢
メモリとストレージは、システムの応答性や扱えるデータ量に直結します。Raspberry Pi 5はLPDDR4Xメモリを最大16GBまで搭載できます。一方、Orange Pi 5 Proはより高速なLPDDR5メモリを採用し、Orange Pi 5 Plusは最大32GBという大容量のLPDDR4xメモリを選択できます。
ストレージ構成において、両者の思想の違いは顕著です。Raspberry Pi 5の起動ストレージは基本的にmicroSDカードかUSB接続のストレージに限られます。高速なNVMe SSDを利用するには、別途HAT(拡張ボード)を追加購入しなければなりません。
これに対し、Orange Pi 5シリーズはmicroSDカードスロットに加えて、信頼性の高いeMMCモジュール用のソケット、そしてNVMe SSDを直接接続できるM.2スロットを標準でボード上に搭載しています。このネイティブなNVMeサポートは、パフォーマンスと信頼性の両面で大きなアドバンテージです。
接続性の優位性|拡張ポートとI/O
プロジェクトの可能性を広げるのが、各種インターフェース(I/O)です。Raspberry Pi 5はギガビットイーサネット(1GbE)、Wi-Fi 5、USBポート、そして2つのmicro-HDMIポートを備えています。
Orange Pi 5 Plusは、この点でRaspberry Pi 5を圧倒します。デュアル2.5ギガビットイーサネット(2.5GbE)、最大8K出力に対応する2つのフルサイズHDMI出力、さらに特筆すべきは4K対応のHDMI「入力」ポートまで備えていることです。これにより、外部からの映像を取り込むといったユニークな使い方ができます。
PCI Express(PCIe)の仕様も重要です。Raspberry Pi 5はPCIe 2.0を1レーン(x1)しか提供しません。これはNVMe SSDなどの高速な周辺機器にとってボトルネックとなります。一方、Orange Pi 5 PlusはPCIe 3.0を4レーン(x4)備えたM.2スロットを搭載し、Raspberry Pi 5の数倍のストレージ速度を実現します。
機能 | Raspberry Pi 5 | Orange Pi 5 Plus | Orange Pi 5 Pro |
SoC | Broadcom BCM2712 | Rockchip RK3588 | Rockchip RK3588S |
CPU | 4x Cortex-A76 @ 2.4GHz | 4xA76 @ 2.4GHz + 4xA55 @ 1.8GHz | 4xA76 @ 2.4GHz + 4xA55 @ 1.8GHz |
GPU | VideoCore VII | Arm Mali-G610 MP4 | Arm Mali-G610 MP4 |
NPU | なし(AI HAT+が必要) | 6 TOPS | 6 TOPS |
RAM | 最大16GB LPDDR4X | 最大32GB LPDDR4/4x | 最大16GB LPDDR5 |
ストレージ | microSD, USB, HAT経由NVMe | microSD, eMMC, M.2 NVMe | microSD, eMMC, M.2 NVMe |
PCIe | 1x PCIe 2.0 (FFC) | 1x M.2 PCIe 3.0 x4 | 1x M.2 PCIe 2.0 x1 |
イーサネット | 1x 1GbE | 2x 2.5GbE | 1x 1GbE |
ワイヤレス | Wi-Fi 5, BT 5.0 | モジュールが必要 | Wi-Fi 5, BT 5.0 |
ビデオ出力 | 2x micro-HDMI (4Kp60) | 2x HDMI 2.1 (8Kp60) | 1x HDMI 2.1(8K), 1x HDMI 2.0(4K) |
ビデオ入力 | なし | 1x HDMI 2.0 (4Kp60) | なし |
実力の証明|ベンチマークで見るパフォーマンス
スペックシート上の数値が、実際の使用感にどう結びつくのか。各種ベンチマークテストの結果から、両者の真の実力を明らかにします。
純粋な計算能力|CPUとGPUのベンチマーク結果
CPU性能を測るGeekbenchでは、シングルコア性能ではRaspberry Pi 5が僅かに優勢です。しかし、複数のコアを同時に使用するマルチコア性能では、8コアを搭載するOrange Pi 5 PlusがRaspberry Pi 5に約2倍のスコア差をつけて圧勝します。
この差は、Linuxカーネルのコンパイルのような実際の重い作業で顕著に現れます。Orange Pi 5 Plusが約1500秒で完了するタスクに、Raspberry Pi 5は約2000秒を要します。動画のエンコードや複数のアプリケーションを同時に動かすような用途では、Orange Piの優位性は揺るぎません。
データ転送のボトルネック|ストレージとネットワーク速度
ストレージ性能はシステムの快適性を左右する重要な要素です。HAT経由でNVMe SSDを接続したRaspberry Pi 5の読み取り速度は、最大でも約830MB/s(非公式のGen3設定時)です。
対照的に、PCIe 3.0 x4スロットを持つOrange Pi 5 Plusは、2000MB/sに迫る読み取り速度を叩き出します。これはRaspberry Pi 5の2倍以上の性能であり、大容量ファイルの扱いやOSの起動、アプリケーションの読み込み速度に絶大な効果を発揮します。
ネットワーク性能も同様です。Raspberry Pi 5の1GbEポートは約110MB/sで頭打ちになりますが、Orange Pi 5 Plusの2.5GbEポートは200MB/sを遥かに超える転送速度を実現します。高性能なNAS(ネットワーク接続ストレージ)を構築するなら、この差は決定的です。
運用コストの鍵|消費電力と熱管理
高性能化に伴い、消費電力と発熱も無視できない問題です。アイドル時の消費電力はRaspberry Pi 5が約3W、Orange Pi 5が約2Wと、どちらも非常に低消費電力です。
しかし、高負荷時にはRaspberry Pi 5が約12W、Orange Pi 5 Plusが約15Wに達します。持続的に高いパフォーマンスを維持するためには、どちらのボードもファンなどのアクティブ冷却が必須です。
興味深いのは電力効率(ワットあたりの性能)です。重い並列処理タスクにおいて、Orange Pi 5はRaspberry Pi 5よりも約1.7倍高い電力効率を示します。これは、Orange Piがタスクをより速く終わらせてアイドル状態に戻るため、結果的により少ない総エネルギーで仕事を終えることを意味します。24時間稼働のサーバーを考える上で、これは非常に重要な視点です。
隠れた決定要因|ソフトウェアとエコシステム
ハードウェアのスペックは物語の半分に過ぎません。プロジェクトの成功を左右するのは、ソフトウェアの成熟度、安定性、そしてコミュニティのサポートです。この点において、Raspberry Piは長年の蓄積による大きなアドバンテージを持っています。
OSの成熟度|公式サポートとサードパーティの選択肢
Raspberry Piの最大の強みは、その公式OSである「Raspberry Pi OS」です。非常によく洗練され、安定しており、必要なドライバやライブラリが最初から完璧に統合されています。まさに「プラグアンドプレイ」の体験を提供します。
一方、Orange PiもDebianやUbuntu、Androidなどの公式OSを提供していますが、その品質は玉石混交です。バグが多かったり、情報が古かったりすることも少なくありません。そのため、多くのOrange Piユーザーは、ArmbianやDietPiといった、より安定したサードパーティ製のOSを利用しています。これは初心者にとって最初のハードルとなります。
長期的な安定性|メインラインLinuxカーネルの重要性
これは専門的な話になりますが、長期的な安定性を考える上で極めて重要です。Raspberry Pi財団は、自社のハードウェアを標準的なLinuxカーネル(メインラインカーネル)で動作させるための開発を積極的に進めています。これにより、将来にわたってセキュリティアップデートや新機能の恩恵を受け続けることが保証されます。
対照的に、Orange Piが採用するRockchip RK3588のサポートは、現時点ではメーカーが提供する古いカーネル(BSPカーネル)に依存している部分が大きいです。メインライン化も進められていますが、全てのハードウェア機能が完全にサポートされるまでにはまだ時間がかかります。これは、将来的なOSのアップデートで問題が発生するリスクを抱えていることを意味し、Orange Piプラットフォームの最大のアキレス腱と言えます。
コミュニティの力|ドキュメントとハードウェア互換性
Raspberry Piは、世界中に広がる巨大で活発なコミュニティを誇ります。日本語の情報も豊富で、トラブルが発生しても、フォーラムやブログを検索すれば大抵の解決策が見つかります。また、「HAT」と呼ばれる拡張ボードの規格が統一されており、膨大な数のサードパーティ製アクセサリが利用できます。
Orange Piのコミュニティは、より小規模で上級者向けです。情報は分散しており、問題解決には英語のフォーラムを読み解くなどのスキルが求められます。GPIOピンの配置はRaspberry Piと互換性がありますが、ソフトウェア的な互換性はないため、多くのRaspberry Pi用HATはそのままでは動作しません。この「ソフトウェアの壁」を乗り越える手間と時間、それがOrange Piを使う上で支払うべき暗黙の「税金」です。
総所有コスト(TCO)を比較|本当に安いのはどっち?
ボードの初期価格だけで判断するのは早計です。実際に使えるシステムを構築するために必要な周辺機器を含めた「総所有コスト(TCO)」で比較することが重要です。
基本システムの構築コスト
Raspberry Pi 5(8GBモデル)を例にとると、ボード本体(約80ドル)に加えて、フル性能を発揮するために必須の公式電源(約12ドル)、公式アクティブクーラー(約5ドル)、ケース(約10ドル)、microSDカードなどを揃えると、基本システムで約127ドルになります。
一方、Orange Pi 5 Pro(8GBモデル)は、ボード(約100ドル)にケースファンセット(約15ドル)、電源(約10ドル)、microSDカードなどを加えて約140ドルです。Orange Pi 5 Plus(16GBモデル)は、さらに高価で約201ドルになります。
一見するとRaspberry Piが安価に見えます。
見過ごせない「追加コスト」
しかし、Raspberry Pi 5には見過ごせない「追加コスト」が存在します。まず、性能を最大限に引き出すには5V/5Aという特殊なプロファイルのUSB-PD電源が推奨されており、手持ちの充電器では性能が制限される場合があります。結果的に公式電源が必須となるケースが多いです。
さらに、micro-HDMIという特殊なポートを採用しているため、標準的なHDMIケーブルしか持っていない場合は、変換アダプタや専用ケーブルを追加購入しなければなりません。
これらの小さな必須アクセサリーの積み重ねが、Raspberry Pi 5のTCOを押し上げます。対照的に、Orange Pi 5 Pro/PlusはフルサイズのHDMIポートを備え、より一般的な電源で動作するため、こうした追加コストはかかりません。用途によっては、初期投資が高くてもOrange Pi 5 Plusの方が優れたコストパフォーマンスを発揮する場合があります。例えばNASを構築する場合、Raspberry Pi 5にNVMe HATなどを追加していくと、デュアル2.5GbEやPCIe 3.0 x4を持つOrange Pi 5 Plusの総コストに近づいてきます。その場合、わずかな追加投資で得られる性能向上は計り知れません。
結局どちらを選ぶべきか?ユースケース別徹底ガイド
これまでの比較を踏まえ、具体的なプロジェクトごとに最適なボードを推奨します。あなたの目的に最も合致するのはどちらでしょうか。
自宅サーバー構築(NAS・仮想化)に最適なのは?
この分野では、Orange Pi 5 Plusが議論の余地なくチャンピオンです。デュアル2.5GbEポートと超高速なPCIe 3.0 x4のNVMeスロットは、高性能なNASや複数のサービスを快適に動かす仮想化ホストに求められるI/O性能を提供します。Raspberry Pi 5の1GbEポートとPCIe 2.0 x1では、深刻なボトルネックとなります。
メディアセンター(Plex・Kodi)の最適解は?
PlexやJellyfinで複数の4K映像をトランスコーディング(リアルタイム変換)するサーバーを構築したいなら、強力なVPU(ビデオプロセッシングユニット)を持つOrange Pi 5シリーズ一択です。Raspberry Pi 5はハードウェアエンコーダの性能が限られており、4Kトランスコーディングは不可能です。
ただし、映像を変換せず直接再生するメディア「クライアント」として使うなら、ソフトウェアが洗練されているRaspberry Pi 5も非常に優れた選択肢です。
レトロゲーム・エミュレーターで遊ぶなら?
プレイステーション1やニンテンドー64あたりまでの比較的軽いゲームを手軽に楽しみたいなら、ソフトウェア環境が成熟しているRaspberry Pi 5がおすすめです。RetroPieなどのプロジェクトが、ほぼ設定不要でシームレスな体験を提供します。
しかし、プレイステーション2やGameCube、Switchといったより高度なエミュレーションに挑戦したいなら、Orange Pi 5の圧倒的なCPU/GPUパワーが必要です。ただし、その性能を引き出すには、より多くの手動設定と試行錯誤が求められます。
AI・機械学習開発のパートナーは?
オンデバイスでのAI推論プロジェクトなら、統合された6TOPSのNPUを持つOrange Pi 5シリーズがデフォルトの選択肢です。高価な追加投資なしで、強力なAI処理性能を手に入れられます。Raspberry Pi 5で同等の性能を得るには、高価なAI HAT+の購入が別途必要になります。
電子工作・IoTプロジェクトの信頼性は?
センサーを扱ったりロボットを制御したりする物理コンピューティングの分野では、今もなおRaspberry Pi 5が揺るぎない王者です。成熟したGPIOライブラリ、膨大なドキュメント、そして広大なHATエコシステムが、プロジェクトの信頼性と開発の容易さを保証します。Orange PiのGPIOも機能しますが、ソフトウェアサポートの未熟さから、上級者向けの選択肢と言えます。
まとめ|2025年、あなたにとって最高のSBCはこれだ
Raspberry Pi 5とOrange Pi 5シリーズの戦いは、「最高のユーザー体験」と「最高のハードウェア性能」のどちらを重視するかという、根本的な思想の違いを浮き彫りにしています。
私が導き出した結論は明確です。
- 初心者、教育者、電子工作を手軽に楽しみたいホビイスト|迷わず Raspberry Pi 5 を選ぶべきです。広大なコミュニティ、豊富な日本語情報、洗練されたOSが、あなたの学びと創造を強力にサポートします。
- パワーユーザー、開発者|あなたの目的によって選択は分かれます。NAS、高性能メディアサーバー、ハイエンドエミュレーションなど、とにかく最高のパフォーマンスを求めるなら Orange Pi 5 Plus が最適です。ソフトウェアの壁を乗り越える覚悟があれば、価格以上の価値を手に入れられます。
- AI開発者、ネットワーク専門家|特定の分野でプロフェッショナルなツールを求めるなら Orange Pi 5シリーズ が輝きます。統合NPUによるAI開発や、デュアル2.5GbEポートを活用したカスタムルーター構築など、Raspberry Piにはないユニークで強力な機能が魅力です。
2025年のSBC市場は、もはや一つの正解がない、多様でエキサイティングな世界です。この記事が、あなたのプロジェクトにとって最高のパートナーを見つけるための一助となれば幸いです。