サーバー化の第一歩!ラズパイのIPアドレス固定でリモートアクセスを安定させる方法
私がラズベリーパイ(ラズパイ)をサーバーとして本格的に活用し始めたとき、最初に直面したのがネットワークの不安定さでした。原因は、IPアドレスが頻繁に変わってしまうことでした。
Webサーバーやファイルサーバーとして24時間安定して動かすには、IPアドレスの固定が絶対に必要です。
この記事では、なぜIPアドレスの固定が重要なのか、そして初心者でも確実に設定できる具体的な手順を、私の経験を交えながら詳しく解説します。
なぜラズパイのIPアドレス固定が重要なのか?
ラズパイをサーバーとして活用する上で、IPアドレスの固定は避けては通れない重要な設定です。この設定がなぜ必要なのか、その理由を掘り下げていきます。
IPアドレスが変わる「動的IP」の仕組み
ほとんどの家庭用ネットワークでは、ルーターが「DHCP」という機能で各機器にIPアドレスを自動的に割り当てています。これは、新しく接続したスマホやPCに空いているIPアドレスを貸し出す便利な仕組みです。
しかし、この方法で割り当てられるIPアドレスは一時的なもので、ラズパイを再起動したり、ルーターのリース期間が過ぎたりすると、別のIPアドレスに変更されてしまいます。この「住所」が変わってしまう現象が、サーバー運用の大きな障害となります。
常に同じ「静的IP」で得られる安定性
この問題を解決するのが、IPアドレスを特定の機器に永続的に割り当てる「静的IPアドレス(固定IPアドレス)」の設定です。一度設定すれば、ラズパイの「住所」は常に同じになり、ネットワーク上でいつでも見つけ出せます。
この予測性の高さと信頼性が、安定したサーバー運用の基盤となります。デバイスを再起動してもネットワーク環境が変わっても、常に同じアクセスポイントを提供できることが、IPアドレスを固定する本質的な価値です。
サーバー化に必須の具体的な理由
IPアドレスを固定すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。私の経験上、特に以下の用途でその真価を発揮します。
用途 | 固定IPが必須な理由 |
リモートアクセス (SSH) | モニターやキーボードなしでラズパイを操作する際、接続先のIPアドレスが固定されていないと、毎回アドレスを探す手間が発生します。 |
Webサーバー | 公開するWebサイトのアドレスが変わってしまっては、誰もアクセスできません。安定したサイト運営には固定IPが不可欠です。 |
ファイルサーバー (NAS) | 家庭内のどのデバイスからも常に同じアドレスでアクセスできるため、ファイル共有がスムーズになります。 |
ホームオートメーション | IoTデバイスがデータを送るハブとして利用する場合、通信先が固定されていることで、途切れないデータ収集と制御が実現します。 |
ネットワーク広告ブロック (Pi-hole) | ネットワーク内の全デバイスが参照するDNSサーバーとして機能するため、そのアドレスが変わってはいけません。 |
設定前に必須!ネットワーク情報の集め方
IPアドレスを固定するには、現在のネットワーク環境を正確に把握する「偵察」作業が欠かせません。この一手間が、設定ミスを防ぐ最も重要なステップです。
現在のラズパイの情報を確認する
設定を始める前に、ラズパイ自身の現在のネットワーク情報を確認します。特に、有線接続か無線接続かによってインターフェース名が異なる点に注意が必要です。
ターミナルを開き、以下のコマンドを実行します。
- IPアドレスのみをシンプルに確認する場合 Bash
hostname -I
- MACアドレスなど詳細情報を確認する場合 Bash
ip addr
このコマンドで、インターフェース名(有線ならeth0
、無線ならwlan0
など)、現在のIPアドレス(inet
の後に続く数字)、そしてMACアドレス(ether
の後に続く英数字)をメモしておきます。
ネットワークの重要情報を特定する
次に、ラズパイがインターネットと通信するために必要な「出口」と「案内役」の情報を調べます。
デフォルトゲートウェイ(ルーター)の特定
デフォルトゲートウェイは、ネットワークの出口となるルーターのIPアドレスです。以下のコマンドで確認できます。
ip route
表示された結果の「default via」の後に続くIPアドレスが、ルーターのアドレスです。このアドレスは後の設定で必ず使います。
DNSサーバーの特定
DNSサーバーは、google.com
のようなドメイン名をIPアドレスに変換する役割を担います。多くの場合、DNSサーバーはルーターが兼ねており、デフォルトゲートウェイと同じIPアドレスです。
もし特定のDNSサーバーを使いたい場合は、Googleが提供する8.8.8.8
や1.1.1.1
といったパブリックDNSを利用するのも良い選択肢です。
IPアドレスの重複を避ける方法
ネットワーク設定で最もやってはいけない失敗が、IPアドレスの重複です。他の機器がすでに使っているIPアドレスをラズパイに設定すると、両方の機器で通信トラブルが発生します。
これを防ぐため、設定したいIPアドレスが空いているか、ping
コマンドで必ず確認します。ネットワーク内の別のPCから、使いたいIPアドレス(例 192.168.1.100
)に対して以下のコマンドを実行します。
ping 192.168.1.100
「Destination Host Unreachable」や「Request timed out」と表示されれば、そのアドレスは空いている可能性が高いです。逆に返信があった場合は、別のアドレスを検討します。
推奨No.1!ルーターでIPアドレスを予約する方法
ラズパイのIPアドレスを固定する最も確実で推奨される方法が、ルーターのDHCP予約機能を使う方法です。ラズパイ側は一切設定せず、ネットワークの司令塔であるルーター側で設定を完結させます。
なぜルーターでの設定がベストなのか?
私がこの方法を強く推奨する理由は、その安全性と管理のしやすさにあります。
- IPアドレスの競合を根絶|ルーターがIPアドレスを一元管理するため、予約したアドレスが他の機器に割り当てられる事故を構造的に防ぎます。
- 管理が楽になる|どの機器にどのIPアドレスを割り当てているか、ルーターの管理画面で一覧できます。
- ラズパイは設定不要|ラズパイは「IPアドレスを自動取得」のままなので、別のネットワークに持っていっても設定変更なしで接続できます。
ルーター設定の基本的な流れ
ルーターの機種によって画面は異なりますが、基本的な手順は同じです。
- Webブラウザからルーターの管理画面にアクセスします。(先ほど調べたゲートウェイアドレスを入力)
- 管理者IDとパスワードでログインします。
- メニューから「LAN設定」や「DHCP固定割当」といった項目を探します。
- 新しい予約ルールを作成し、ラズパイのMACアドレスと、固定したいIPアドレスを紐づけて登録します。
- 設定を保存し、ルーターを再起動します。その後、ラズパイも再起動すると、予約したIPアドレスが割り当てられます。
主要メーカー別|設定画面へのアクセス例
ルーターの管理画面へアクセスするための初期IPアドレスは、メーカーごとにある程度決まっています。
メーカー | 一般的な管理画面IP | 設定メニューの名称例 |
Buffalo | 192.168.11.1 | 手動割当、リース情報 |
NEC Aterm | 192.168.10.1 | DHCP固定割当 |
Google/Nest Wifi | アプリ経由 | DHCP IP 予約 |
TP-Link | 192.168.0.1 or 192.168.1.1 | アドレス予約 |
ASUS | 192.168.1.1 | 手動割り当て |
ラズパイ側で直接IPアドレスを設定する方法
大学や会社のネットワークのように、ルーターを操作できない環境では、ラズパイ側で直接IPアドレスを設定する必要があります。ただし、この方法はOSのバージョンによって手順が全く異なるため注意が必須です。
【最重要】OSのバージョンで設定方法が変わる
設定を始める前に、お使いのOSバージョンを必ず確認してください。これが成功への鍵です。
- Bookworm (2023年10月以降) ベースのOS|
NetworkManager
というツールで管理します。 - Bullseye, Buster 以前の古いOS|
dhcpcd
という仕組みで管理します。
ターミナルで以下のコマンドを実行し、PRETTY_NAME
の行に “Bookworm” と表示されるか確認します。
cat /etc/os-release
自分のOSに合わない方法で設定しても、IPアドレスは固定されません。
最新OS (Bookworm以降) の設定手順
“Bookworm”以降のOSでは、NetworkManager
を使って設定します。古い情報サイトで紹介されているdhcpcd.conf
を編集する方法は使えません。
GUI (デスクトップ) での設定
デスクトップ環境がある場合は、GUIで直感的に設定できます。
- 画面右上のネットワークアイコンを右クリックし、「Edit Connections…」を選択します。
- 設定したい接続(有線または無線)を選び、歯車アイコンをクリックします。
- 「IPv4 Settings」タブを開き、「Method」を「Manual」に変更します。
- 「Add」ボタンを押し、固定したいIPアドレス、ネットマスク(例
24
)、ゲートウェイ(ルーターのIP)を入力します。 - 「DNS servers」の欄にDNSサーバーのアドレスを入力し、「Save」で保存します。
CUI (ターミナル) での設定 (nmtui)
ヘッドレス環境(モニターなし)では、nmtui
というCUIツールを使うのが安全で簡単です。
- ターミナルで
sudo nmtui
を実行します。 - 矢印キーで「Edit a connection」を選び、Enterを押します。
- 設定したい接続を選び、Enterを押します。
- 「IPv4 CONFIGURATION」を
<Manual>
に変更します。 - 右側の「Addresses」にIPアドレスをCIDR表記(例
192.168.1.100/24
)で入力し、同様に「Gateway」と「DNS servers」も入力します。 - 一番下の「OK」で保存し、「Quit」でツールを終了します。
従来OS (Bullseye以前) の設定手順
古いOSを使っている場合は、dhcpcd.conf
という設定ファイルを直接編集します。
dhcpcd.confファイルを編集する
nanoエディタで設定ファイルを開きます。
sudo nano /etc/dhcpcd.conf
ファイルの末尾に、以下のような設定を追記します。これは有線LAN(eth0
)の例です。無線LANの場合は interface wlan0
と書き換えます。
# 静的IPアドレス設定
interface eth0
static ip_address=192.168.1.100/24
static routers=192.168.1.1
static domain_name_servers=192.168.1.1 8.8.8.8
Ctrl + O
で保存し、Ctrl + X
でエディタを終了後、ラズパイを再起動して設定を反映させます。
sudo reboot
設定後の確認とトラブルシューティング
設定が完了したら、それが正しく機能しているかを確認し、問題があれば原因を特定して解決します。この最終チェックが安定稼働の鍵を握ります。
4ステップで設定を完璧に検証する
以下の4段階でテストを行うと、問題の切り分けがスムーズになります。
- IPアドレスの確認|ラズパイのターミナルで
hostname -I
を実行し、設定した固定IPアドレスが表示されるか確認します。 - ローカル接続のテスト|同じネットワークのPCから
ping <ラズパイの固定IP>
を実行し、応答があるか確認します。 - インターネット接続のテスト|ラズパイのターミナルから
ping 8.8.8.8
を実行し、インターネット上のIPアドレスと通信できるか確認します。 - DNS解決のテスト|ラズパイのターミナルから
ping google.com
を実行し、ドメイン名で通信できるか確認します。
この4つが全て成功すれば、設定は完璧です。
よくあるエラーと解決策
検証で問題が見つかった場合は、以下の表を参考にしてください。私の経験上、ほとんどのトラブルはこれで解決します。
症状 | 最も可能性の高い原因 | 解決策 |
接続が不安定になる | IPアドレスの競合|他の機器と同じIPアドレスを設定してしまった。 | ping で空きを確認した別のIPアドレスに変更する。ルーターのDHCP予約が最も確実な対策です。 |
ラズパイにpingが通らない | 設定ファイルのミス|IPアドレスやゲートウェイの入力ミス。OSバージョンと設定方法が合っていない。 | 設定ファイル (NetworkManager またはdhcpcd.conf ) を見直し、タイプミスがないか、OSに適した方法で設定しているか再確認します。 |
外部サイトにpingが通らない | ゲートウェイの誤設定|インターネットへの出口(ルーター)のIPアドレスが間違っている。 | 設定ファイル内のゲートウェイアドレスが、ip route コマンドで確認した正しいアドレスと一致しているか確認します。 |
ドメイン名でpingが通らない | DNSサーバーの誤設定|IPアドレスは分かるが、ドメイン名が解決できない。手動設定で最も多いミスです。 | DNSサーバーのアドレスをルーターのIPアドレス、または8.8.8.8 などに正しく設定し直します。 |
まとめ|あなたの環境に最適な設定方法を選ぼう
ラズパイのIPアドレスを固定することは、安定したサーバーを構築するための第一歩です。これまで解説した方法の中から、あなたの環境に最適なものを選びましょう。
私の最終的な推奨は非常にシンプルです。もしあなたが自宅や小規模オフィスでラズパイを使い、ルーターの管理画面にアクセスできるのであれば、迷わず「ルーターでのDHCP予約」を選んでください。 これが最も安全で、管理しやすく、トラブルの少ない方法です。ラズパイ側を汚さずに済むというメリットも大きいでしょう。
一方で、ルーターを操作できない環境にいる場合は、ラズパイ側で設定するしかありません。その際は、OSのバージョンを正確に把握し、”Bookworm”ならnmtui
、それ以前ならdhcpcd.conf
の編集、というように適切なツールを選択することが成功の絶対条件です。
IPアドレスという揺るぎない土台を築くことで、あなたのラズパイはWebサーバーやファイルサーバー、その他様々なプロジェクトでその真価を発揮します。この記事が、あなたのラズパイ活用の一助となれば幸いです。