『VPN Gateway』料金を徹底比較!AWS・Azure・GCPで最も安いのは?
クラウドサービスを利用する上で、オンプレミス環境との安全な接続を担うVPN Gatewayは不可欠なコンポーネントです。しかし、AWS、Azure、GCPという3大クラウドプロバイダーの料金体系はそれぞれ異なり、非常に複雑です。私が料金体系を分析した結果、「どのプロバイダーが一番安いか」は、データ転送量や可用性の要件といった利用シナリオに大きく依存するという結論に至りました。
この記事では、各社のVPN Gatewayサービスの料金モデルを徹底的に分解し、具体的なシナリオに基づいたコストシミュレーションを行います。あなたのビジネスに最もコスト効率の高いVPN Gatewayを見つけるための、確かな情報を提供します。
3大クラウドVPN Gateway|料金哲学の違い
AWS、Azure、GCPは、VPN Gatewayの料金に対して根本的に異なる哲学を持っています。この違いを理解することが、最適なプロバイダーを選ぶ第一歩です。各社の特徴を把握し、自社の予算策定や運用スタイルに合ったサービスを選びましょう。
AWS|統合された従量課金モデル
AWSの料金モデルは、その広範なVPCエコシステムの一部としてVPNを位置づける、統合的なアプローチが特徴です。基本は「VPN接続ごとの時間料金」と「データ転送料金」を組み合わせた、比較的シンプルな従量課金制です。
特筆すべきは、高可用性(HA)構成が標準で組み込まれている点です。1つの接続料金で、異なるアベイラビリティゾーンにまたがる2つのトンネルが自動的に提供されます。このシンプルさは、すでにAWSを深く利用しているユーザーにとって大きなメリットです。
Azure|パフォーマンスベースの階層型SKUモデル
Azureは、エンタープライズ利用を強く意識した階層型のSKU(Stock Keeping Unit)モデルを採用しています。ユーザーは「VpnGw1」や「VpnGw2」といったゲートウェイの「サイズ」を選択します。
このサイズによって、スループット性能、機能、そして固定の時間料金が決まります。このアプローチはコストの予測可能性を高めますが、利用量に見合わない過剰なリソースを確保してしまうリスクも伴います。高可用性は、料金が割増になるゾーン冗長SKU(AZ)を選択することで実現します。
Google Cloud (GCP)|コンポーネントごとの詳細な課金モデル
GCPは、「利用した分だけ支払う」という哲学に基づいた、非常に詳細なコンポーネントモデルを採用しています。料金は個々のトンネル、IPアドレス、データトラフィックに分解され、きめ細かなコスト管理ができます。
このモデルは高い柔軟性を提供しますが、正確なコストを把握するためには綿密な計算が必要です。高可用性(HA)VPNは、構成上2本のトンネルが必要となり、ゲートウェイの時間料金も単純に2倍になります。アーキテクチャが直接コストに反映される点が大きな特徴です。
【サービス別】VPN Gateway料金の内訳を徹底解説
各社の料金哲学の違いを踏まえた上で、具体的な料金の内訳を詳しく見ていきましょう。私が各サービスの料金項目を分析し、特に注意すべきポイントを整理しました。固定費や変動費、隠れたコストまで把握することが重要です。
AWS Site-to-Site VPNの料金
AWSの料金は、接続料金とデータ転送料金が基本ですが、最近の料金改定も考慮に入れる必要があります。
接続料金|時間単位の固定費
VPN接続がプロビジョニングされている限り、接続ごとに固定の時間料金が発生します。ほとんどのリージョンで、1接続あたり毎時$0.05です。これは月額に換算すると約$36.50($0.05 × 24時間 × 30.4日)に相当します。
データ転送料金|下りトラフィックが変動要因
AWSへのデータ入力(上り)は無料です。一方で、AWSからのデータ出力(下り)は、標準のEC2データ転送料金に基づいて課金されます。この下りデータ転送料金が、コストを左右する主要な変動要因となります。
高可用性(HA)のコスト|標準搭載の強み
AWS Site-to-Site VPNは、デフォルトで高可用性を備えています。毎時$0.05という単一の接続料金で、2つのトンネルがカバーされるため、HA構成のための追加料金は発生しません。これは他のクラウドと比較して大きな強みです。
見過ごせない隠れたコスト|パブリックIPv4アドレス料金
2024年2月1日から、AWSはVPNトンネルに使用されるものを含む、すべてのパブリックIPv4アドレスに料金を課すようになりました。標準的なVPN接続は2つのトンネル、つまり2つのパブリックIPを持つため、これにより月額で約$7.30($0.005/IP/時 × 2IP × 24時間 × 30.4日)の追加コストが発生します。
Azure VPN Gatewayの料金
Azureのコストは、選択するSKUによって大きく変動します。キャパシティプランニングが非常に重要です。
ゲートウェイ料金|SKU選択がコストの鍵
料金はプロビジョニングされたゲートウェイSKUに対して時間単位で課金されます。パフォーマンスや機能に応じてSKUが分かれており、コストの予測がしやすい反面、適切なSKUを選ばないと無駄なコストが発生します。
SKU | 集約スループット | 月額料金(USD概算) |
Basic | 100 Mbps | $26 |
VpnGw1 | 650 Mbps | $138 |
VpnGw2 | 1 / 1.25 Gbps | $357 |
VpnGw3 | 1.25 / 2.5 Gbps | $912 |
VpnGw5 | 10 Gbps | $2,664 |
データ転送料金|ゾーンに基づく課金
Azureへのデータ入力(上り)は無料です。データ出力(下り)は、地理的なゾーンに基づいて課金されます。日本のリージョンは比較的安価なゾーンに分類されています。
高可用性(HA)のコスト|ゾーン冗長SKUは割増料金
HA構成は、「VpnGw1AZ」のようなゾーン冗長(AZ)SKUを選択することで実現します。これらのSKUは、非冗長版よりも明確に高価に設定されており、例えばVpnGw1AZ(約$153/月)はVpnGw1(約$138/月)より約10%高くなります。
Google Cloud VPNの料金
GCPの料金は、コンポーネントごとに細かく分解されており、特にトンネル数とデータ転送量がコストを決定します。
ゲートウェイ料金|トンネルごとの時間課金
GCPの主要な課金要素は、トンネルごとの時間料金です。この料金はロケーションに依存し、東京リージョンでは1トンネルあたり毎時$0.075です。月額換算では1トンネルあたり約$54.75となります。
データ転送料金|階層型のインターネット下り料金
Google Cloudへのデータ入力(上り)は無料です。データ出力(下り)は、宛先によって料金が異なり、インターネットへの下りトラフィックは利用量に応じた階層制料金が適用されます。
高可用性(HA)のコスト|アーキテクチャによるコスト増
GoogleのHA VPNは99.99%のSLAを提供しますが、その構成には2本のトンネルが必須です。これにより、ゲートウェイの時間料金は実質的に2倍、東京リージョンでは月額約$109.50($54.75 × 2)となります。
【シナリオ別】VPN Gatewayの料金をシミュレーション比較
ここまで各社の料金体系を解説してきましたが、実際の利用シーンではどのくらいの費用がかかるのでしょうか。私が代表的な3つのシナリオで月額料金をシミュレーションしました。自社の利用状況に最も近いシナリオを参考にしてください。
シナリオの前提条件
料金比較を公平に行うため、以下の共通条件を設定します。
- リージョン|東京リージョン
- 可用性|高可用性(HA)構成
- 稼働時間|24時間365日
- 料金|データ転送料金とゲートウェイ関連の固定費を含む月額概算(USD)
比較結果|どのクラウドが最も安いのか?
シミュレーション結果から、単一の「最も安価な」プロバイダーは存在せず、ワークロードによってコスト効率が大きく変わることが明確になりました。
シナリオ | ワークロード | AWS | Azure | GCP | 最も安いプロバイダー |
1 | 低トラフィック (下り200 GB/月) | ~$55 | ~$171 | ~$134 | AWS |
2 | 中トラフィック (下り5 TB/月) | ~$602 | ~$603 | ~$670 | AWS / Azure |
3 | 高トラフィック (下り20 TB/月) | ~$2,163 | ~$2,194 | ~$2,076 | GCP |
シナリオ1: 小規模ビジネス / 低トラフィック
データ転送量が少ない環境では、ゲートウェイの固定費がコストの大部分を占めます。HA構成が標準で、かつパブリックIP料金を含めても固定費が最も安いAWSが、このシナリオでは明確に有利です。
シナリオ2: 中規模企業 / 中トラフィック
データ転送量が5TB/月まで増加すると、データ転送料金の単価が影響し始めます。AWSの低い固定費と、Azureの比較的安価なデータ転送料金が拮抗し、両社のコストはほぼ同等になります。GCPはゲートウェイ固定費の高さが響き、やや割高です。
シナリオ3: 高性能 / 高トラフィック
20TB/月という大量のデータを転送するシナリオでは、データ転送料金の単価が決定的な要因となります。この領域では、下りデータ転送料金の階層割引が効いてくるGCPが最もコスト効率の高い選択肢となります。
まとめ|自社に最適なVPN Gatewayを選ぶためのポイント
AWS、Azure、GCPのVPN Gateway料金比較を通じて明らかになったのは、すべてのシナリオで「最も安い」単一の勝者はいないということです。最適なプロバイダーは、あなたの会社の予算、技術力、そしてトラフィックの特性によって決まります。
予算の予測可能性を最優先するなら、固定料金でパフォーマンスが保証されるAzureのSKUモデルが最適です。最大限の柔軟性を求め、リソース管理を積極的に行う技術チームがいるなら、GCPの詳細な課金モデルがコスト削減の可能性を秘めています。そして、既存のAWS環境とのシームレスな統合とシンプルなHA構成を重視するなら、AWSが最も堅実な選択肢となります。
最終的なコストは、プロバイダー選定だけでなく、データ転送の管理や適切なリソースサイジングといった日々の運用によって大きく左右されます。この記事の分析を参考に、ぜひ自社にとって最高のVPN Gatewayソリューションを見つけてください。