『Raspberry Pi』の全種類を一覧で紹介!最適なモデルの選び方を解説
Raspberry Pi(ラズベリーパイ)は、教育用の安価なコンピュータとして登場して以来、今や多様なモデルを抱える巨大なエコシステムへと進化しました。その結果、「どれを選べば良いかわからない」と悩む方も少なくありません。この記事を読めば、各モデルの特徴から具体的な用途まで理解でき、あなたにぴったりの一台が必ず見つかります。
私が考えるに、Raspberry Pi選びで最も重要なのは「最新モデルが常に最良とは限らない」という点です。プロジェクトの目的に合わせて最適なツールを選ぶことで、コストと性能のバランスが取れた最高の体験が得られます。
Raspberry Piファミリー|戦略的なラインナップを理解する
Raspberry Piのポートフォリオは、単なる性能の向上だけでなく、用途に応じて戦略的に分類されています。それぞれのシリーズがどのような目的で設計されているのかを理解することが、モデル選びの第一歩です。
フラッグシップシリーズ (Model A/B)|最高の性能と汎用性
このシリーズは、クレジットカードサイズの「クラシックな」Raspberry Piを代表します。標準的なフォームファクタで、最高のパフォーマンスと最も豊富なインターフェースを提供します。極端なサイズや電力の制約がないプロジェクトであれば、このシリーズが基本の選択肢となります。
Model BはUSBポートやイーサネットポートをすべて備えたフルスペックバージョンです。一方でModel Aは、一部のポートを削減することで、より低価格でコンパクトなサイズを実現しています。パワーと柔軟性のバランスが求められる開発に最適です。
Zeroシリーズ|小型・省電力のIoT向けモデル
Zeroシリーズは、サイズと消費電力が最優先される組込みプロジェクトや、ミニマリストなコンピューティングのために設計された超小型・低価格のラインです。その小ささから、カメラモジュールと組み合わせて監視システムを構築したり、センサーと接続してIoTデバイスを作成したりする用途で絶大な人気を誇ります。
特に「Zero 2 W」は、初代Zeroのコンパクトさはそのままに、CPU性能が大幅に向上しました。これにより、より複雑な処理を小型デバイスで実行できます。
Picoシリーズ|リアルタイム制御のマイクロコントローラ
Picoシリーズは、他のモデルとは一線を画すマイクロコントローラです。これはLinuxのような完全なOSを動かすコンピュータではなく、電子工作でモーターを制御したり、センサーの値をリアルタイムで読み取ったりといった、低レベルのハードウェア制御に特化しています。
心臓部には自社開発の「RP2040」チップが搭載されており、パワフルかつ手頃な価格を実現しています。Wi-Fi機能を搭載した「Pico W」は、IoT電子工作の入門に最適なモデルです。
キーボードシリーズ (Pi 400)|一体型デスクトップPC
Pi 400は、Raspberry Pi 4をコンパクトなキーボードに統合した、オールインワンのパーソナルコンピュータです。往年のホームコンピュータを彷彿とさせるデザインで、モニターとマウスを接続するだけで、すぐにデスクトップ環境が手に入ります。
教育現場での利用や、手軽で整理されたPC環境を求めるユーザーに最適です。大きな内蔵ヒートシンクにより、高い負荷がかかっても安定したパフォーマンスを維持します。
Compute Moduleシリーズ|産業・商用組込み向け
Compute Moduleは、Raspberry Piのコア機能を小さな基板に凝縮した、組込みシステム向けのモデルです。一般的なUSBやHDMIポートは持たず、専用のコネクタを介してカスタム設計の基板(キャリアボード)に接続して使用します。
これにより、企業のエンジニアはRaspberry Piの強力なソフトウェアエコシステムを活用しつつ、自社製品に合わせた独自のハードウェアを開発できます。デジタルサイネージ、産業用PC、3Dプリンタの制御部など、プロフェッショナルな現場で広く採用されています。
Raspberry Pi全モデルスペック比較|あなたに最適なのはどれ?
ここでは、現在主流となっているRaspberry Piモデルのスペックを比較し、それぞれの違いを解説します。この表を見れば、各モデルの技術的な特徴が一目でわかります。
現行Raspberry Piモデル仕様比較表
特徴 | Raspberry Pi 5 | Raspberry Pi 4 Model B | Raspberry Pi 400 | Raspberry Pi 3 Model A+ | Raspberry Pi Zero 2 W | Raspberry Pi Pico W |
発売年 | 2023 | 2019 | 2020 | 2018 | 2021 | 2022 |
SoC | Broadcom BCM2712 | Broadcom BCM2711 | Broadcom BCM2711 | Broadcom BCM2837B0 | Raspberry Pi RP3A0 | Raspberry Pi RP2040 |
CPU | 2.4GHz クアッドコア Cortex-A76 | 1.5GHz クアッドコア Cortex-A72 | 1.8GHz クアッドコア Cortex-A72 | 1.4GHz クアッドコア Cortex-A53 | 1GHz クアッドコア Cortex-A53 | 133MHz デュアルコア Cortex-M0+ |
RAM | 2GB, 4GB, 8GB | 1GB, 2GB, 4GB, 8GB | 4GB | 512MB | 512MB | 264KB SRAM |
Wi-Fi | 802.11ac | 802.11ac | 802.11ac | 802.11ac | 802.11n | 802.11n |
Bluetooth | 5.0 / BLE | 5.0 / BLE | 5.0 / BLE | 4.2 / BLE | 4.2 / BLE | 5.2 |
イーサネット | ギガビット | ギガビット | ギガビット | なし | なし | なし |
USBポート | 2x USB 3.0, 2x USB 2.0 | 2x USB 3.0, 2x USB 2.0 | 1x USB 3.0, 2x USB 2.0 | 1x USB 2.0 | 1x Micro-USB OTG | 1x Micro-USB |
HDMIポート | 2x Micro-HDMI | 2x Micro-HDMI | 2x Micro-HDMI | 1x フルサイズ HDMI | 1x Mini-HDMI | なし |
PCIe | PCIe 2.0 x1 | なし | なし | なし | なし | なし |
ストレージ | MicroSD (SDR104) | MicroSD | MicroSD | MicroSD | MicroSD | 2MB QSPI Flash |
電源 | 5V/5A USB-C | 5V/3A USB-C | 5V/3A USB-C | 5V/2.5A Micro-USB | 5V/2.5A Micro-USB | 1.8-5.5V |
寸法 (mm) | 85 x 56 | 85 x 56 | 286 x 122 x 23 | 65 x 56 | 65 x 30 | 51 x 21 |
CPUと処理能力|頭脳の違いを理解する
CPUはコンピュータの頭脳であり、その性能が全体の処理速度を大きく左右します。Raspberry Pi 5は、前モデルのPi 4に比べてCPU性能が2~3倍向上し、軽快なデスクトップ操作や複雑なプログラムの実行を実現しました。
一方でZero 2 Wは、小型ながらPi 3に匹敵するクアッドコアCPUを搭載し、小さな筐体で十分な処理能力を発揮します。Picoはマイクロコントローラのため、OSを動かすCPUとは異なり、リアルタイム処理に特化したシンプルなコアを搭載しています。
メモリ (RAM)|作業スペースの広さを確認する
メモリ(RAM)は、プログラムやデータを一時的に保存する作業スペースです。この容量が大きいほど、多くのアプリケーションを同時に開いたり、大規模なデータを扱ったりすることがスムーズになります。
Pi 5やPi 4では最大8GBのモデルが用意されており、デスクトップPCとしての利用にも十分対応できます。対照的に、ZeroシリーズやPicoはメモリ容量が限られており、特定のタスクを効率的に実行することに重点を置いています。
接続性|ネットワークと周辺機器のハブ機能
Wi-Fiやイーサネット、USBポートといった接続性は、プロジェクトの幅を広げる上で非常に重要です。Pi 5やPi 4は、高速なデュアルバンドWi-Fiとギガビットイーサネットを搭載し、安定したネットワーク接続を提供します。
USB 3.0ポートは、外付けSSDなどを接続した際に高速なデータ転送を約束します。Zero WやPico Wはワイヤレス接続に特化し、物理的なポートを最小限に抑えることで小型化を実現しています。
拡張性|GPIOとPCIeの可能性
Raspberry Piの大きな魅力の一つが、GPIO(General Purpose Input/Output)ピンを通じたハードウェア拡張性です。40本のピンヘッダには、LED、センサー、モーターなど様々な電子部品を接続し、物理的な世界と連携するプロジェクトを作成できます。
さらに、Raspberry Pi 5では新たにPCIeインターフェースが搭載されました。これにより、NVMe SSDのような高速なストレージを接続し、これまでとは比較にならないほどのI/O性能を引き出すことが出来ます。
用途別おすすめRaspberry Piモデルの選び方
スペックを理解したところで、具体的な用途ごとにおすすめのモデルを紹介します。あなたのプロジェクトに最適な一台を見つけるための、最終的なガイドです。
デスクトップPCとして使いたい
推奨モデル|Raspberry Pi 5 (8GB以上)、Raspberry Pi 400
日常的なウェブブラウジング、ドキュメント作成、動画視聴といったデスクトップ用途には、高い処理能力を持つRaspberry Pi 5が最適です。特にNVMe SSDを組み合わせることで、エントリーレベルの市販PCに匹敵する快適な操作性を体験できます。
Pi 400は、キーボード一体型の手軽さが魅力で、お子様の学習用PCやリビングのセカンドマシンとして非常に優れた選択肢です。
プログラミングや電子工作の学習
推奨モデル|Raspberry Pi 4、Raspberry Pi Pico W
プログラミング学習や一般的な電子工作の入り口としては、今なおRaspberry Pi 4がコストパフォーマンスに優れた万能なモデルです。豊富な情報と安定した性能で、様々なプロジェクトに挑戦できます。
ハードウェア制御やリアルタイム処理を伴う電子工作を学びたいなら、Raspberry Pi Pico Wが最適です。低価格で始めやすく、MicroPythonを使って手軽にLチカ(LEDを点滅させること)からIoTデバイス製作までステップアップしていけます。
スマートホーム・IoTデバイス開発
推奨モデル|Raspberry Pi Zero 2 W、Raspberry Pi 4/5
センサーからの情報を収集する末端のIoTデバイスや、特定の機能を持つスマートガジェットには、小型で省電力なZero 2 Wがぴったりです。十分な処理能力を持ちながら、場所を取らずに設置できます。
Home Assistantのようなプラットフォームを動かし、家中のデバイスを統括する中央ハブ(コントローラー)として使う場合は、よりパワフルなPi 4またはPi 5が必要です。多数のデバイスを安定して処理する能力が求められます。
自宅サーバー・NAS構築
推奨モデル|Raspberry Pi 5
ファイルサーバー、広告ブロックサーバー(Pi-hole)、NAS(Network Attached Storage)など、24時間稼働させる自宅サーバーにはRaspberry Pi 5が圧倒的におすすめです。強力なCPUとギガビットイーサネットに加え、PCIe接続のNVMe SSDを使える点が最大の強みです。
これにより、高速で信頼性の高いストレージ環境を、低消費電力で構築できます。Pi 4も依然として選択肢になりますが、ストレージ速度がUSB 3.0に限定されるため、本格的な運用ではPi 5に軍配が上がります。
まとめ
Raspberry Piの世界は、フラッグシップのPi 5からマイクロコントローラのPicoまで、驚くほど多様性に富んでいます。それぞれのモデルは特定の目的に合わせて設計されており、その特性を理解することが最適な一台を選ぶ鍵となります。
デスクトップ利用ならPi 5、小型IoTデバイスならZero 2 W、電子工作の第一歩ならPico Wというように、あなたの「やりたいこと」を明確にすれば、自ずと答えは見えてきます。この記事を参考に、ぜひあなたのプロジェクトに生命を吹き込む最高のパートナーを見つけてください。