Raspberry Pi

市販品とどっちがいい?ラズパイ『NAS』のメリット・デメリットを比較

草壁シトヒ
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自宅のネットワークにデータを保存し、どこからでもアクセスできるNAS(ネットワーク接続ストレージ)は非常に便利です。

市販のNAS製品を購入する選択肢もありますが、小型コンピューターのラズベリーパイ、通称「ラズパイ」を使って自作する方法も人気を集めています。私が実際にラズパイでNASを構築・運用した経験から、その魅力と注意点を市販品と比較しながら徹底解説します。

この記事を読めば、あなたにとってラズパイNASが本当に賢い選択なのか、それとも市販品を選ぶべきなのかが明確になります。コスト、性能、そして何より「作る楽しさ」の観点から、最適な一台を見つける手助けをします。

ラズパイNASとは?市販品との根本的な違い

ラズパイNASについて、その基本的な概念と市販品との違いを解説します。自作することで得られる価値は、単なるデータ保存場所に留まりません。

DIYで構築するネットワークストレージ

NAS(Network Attached Storage)とは、ネットワークに接続して利用する外付けハードディスクのようなものです。家庭やオフィスのLANに接続すれば、複数のパソコンやスマートフォンからファイルを共有したり、大切なデータを一箇所にまとめてバックアップしたりできます。

私が挑戦したラズパイNASは、この便利なストレージシステムを、手のひらサイズのコンピューター「ラズベリーパイ」を使って自作するプロジェクトです。市販の完成品NASを購入するのではなく、自分でパーツを選び、ソフトウェアを設定して、オリジナルのファイルサーバーを構築します。

学習とカスタマイズが魅力の自作NAS

市販のNAS製品は、購入して電源を入れればすぐに使える手軽さが魅力です。一方でラズパイNASの最大の魅力は、構築プロセスそのものにあります。SSHでのリモート操作やネットワーク設定、Sambaというファイル共有サービスの構築など、市販品では触れることのない領域を自ら設定します。

この過程を通じて、ネットワークやLinuxサーバーの仕組みを実践的に学べるのが大きな利点です。私自身、勉強がてらNASを構築した経験があり、単に機能を使うだけでなく「仕組みを理解しながら作る楽しさ」こそが、ラズパイNASの本質だと感じています。

ラズパイNASのメリット|低コストで自由度が高い

ラズパイNASを選ぶことには、金銭的なメリットだけでなく、スキルアップや将来的な拡張性といった多くの利点があります。私が特に魅力を感じたポイントを3つ紹介します。

メリット1|圧倒的な低コストと低消費電力

ラズパイNASの最大のメリットは、その導入コストの低さです。ラズベリーパイ本体は数千円から購入でき、市販のNASキットと比較して初期投資を大幅に抑えられます。

加えて、特筆すべきはその驚異的な低消費電力です。24時間365日常時稼働が前提のNASにおいて、電気代をほとんど気にせず運用できる点は、長期的なコストパフォーマンスで市販品を大きく上回ります。

メリット2|サーバー・ネットワークの知識が身につく

ラズパイNASの構築は、最高の学習機会を提供します。OSのインストールから始まり、コマンドラインでの操作、ネットワーク設定、ファイル共有サービスのセットアップまで、すべて自分自身の手で行います。

これらの作業は、市販品を買うだけでは決して得られない貴重な経験です。トラブルが発生した際も、自ら原因を調査し解決策を探す必要があり、その過程でLinuxやサーバー管理に関する実践的なスキルが自然と身に付きます。

メリット3|高いカスタマイズ性と拡張性

ラズパイは非常に汎用性の高いコンピューターです。OSやソフトウェアを自由に選択できるため、単なるファイルサーバーに留まらない、自分だけの多機能サーバーを構築できます。

例えば、OpenMediaVaultというソフトウェアを使えば、プラグインを追加してDLNAメディアサーバーやBitTorrentクライアントなど、様々な機能を簡単に追加できます。将来的にやりたいことが増えても柔軟に対応できる拡張性の高さは、DIYならではの大きな魅力です。

ラズパイNASのデメリット|自己責任が伴う

魅力的なラズパイNASですが、もちろん良いことばかりではありません。市販品にはないデメリットや注意点も存在します。導入してから後悔しないよう、私が感じた現実的な課題を解説します。

デメリット1|堅牢性とデータ消失のリスク

ラズベリーパイは、もともとホビー用途や教育用に設計されたコンピューターです。そのため、24時間稼働を前提に設計された市販の専用NASと比較すると、ハードウェアの堅牢性は劣ります。

特にOSの起動に使うmicroSDカードは消耗品であり、突然の故障でシステムが起動しなくなるリスクは常に存在します。大切なデータを守るためには、OSをより信頼性の高いSSDから起動させたり、複数のHDDでRAIDを組んで冗長性を持たせたりするなど、ユーザー自身でデータ保護策を講じる必要があります。

デメリット2|メーカーサポートがなく自己解決が必須

市販のNAS製品であれば、何かしらのトラブルが発生した際にメーカーのサポートセンターに問い合わせることができ、保証も付いています。しかし、自作のラズパイNASには、当然ながらそのような公式サポートは一切ありません。

設定でつまずいた時やハードウェアが故障した時は、インターネット上の技術情報やコミュニティフォーラムを頼りに、すべて自力で問題を解決しなければなりません。この「自己責任」の原則は、ラズパイNASを運用する上で最も覚悟が必要な点です。

デメリット3|市販品に劣る転送速度

Raspberry Pi 4以降のモデルは、ギガビットイーサネットとUSB 3.0ポートを搭載し、家庭用としては十分な転送速度を実現できます。それでも、高速なデータ転送に特化して設計された市販のNAS製品、特に上位モデルには及びません。

ラズパイNASの速度は、ギガビットイーサネットの上限である約120MB/sが限界です。数十ギガバイト単位の大容量ファイルを頻繁にやり取りするような、高いスループットが求められる用途には向いていないことを理解しておく必要があります。

デメリット4|構築に手間と時間がかかる

市販NASが電源を入れるだけですぐに使えるのに対し、ラズパイNASは完成までに相応の手間と時間が必要です。ハードウェアの選定と購入から始まり、OSのインストール、各種ソフトウェアの設定、共有フォルダの作成と、やるべきことは多岐にわたります。

技術的な知識を学びながら進める楽しさはありますが、とにかく早くNASを使いたい、面倒な設定は避けたいという人にとっては、この構築プロセス自体が大きなデメリットに感じるでしょう。

比較表|ラズパイNAS vs 市販NAS

ラズパイNASと市販NASの主な違いを一覧表にまとめました。どちらが自分の目的やスキルレベルに合っているか、客観的に比較検討してみてください。

項目ラズパイNAS (DIY)市販NAS (製品)
初期コスト低(パーツ構成による)中〜高
運用コスト(電気代)非常に低い低〜中
堅牢性・信頼性低い(自己対策が必要)高い
メーカーサポートなし(自己解決)あり
転送速度実用レベル(上限あり)高速(モデルによる)
機能・カスタマイズ性非常に高い・自由高い・メーカー依存
構築の手間多い(学習が必要)非常に少ない
学習機会非常に多い少ない

ラズパイNAS構築に必要なもの

実際にラズパイでNASを構築する場合、どのようなパーツやソフトウェアが必要になるのかを具体的に紹介します。ここを読めば、おおよその予算感も掴めます。

ハードウェア|本体からストレージまで

最低限必要となるハードウェアは以下の通りです。特にストレージの選び方が、NASの性能と信頼性を大きく左右します。

  • Raspberry Pi本体|NAS用途にはギガビットイーサネットとUSB 3.0を搭載したRaspberry Pi 4 Model BまたはPi 5が推奨されます。
  • ストレージ (HDD/SSD)|データを保存する心臓部です。USB接続の外付けHDDやSSDを使用します。データの安全性を高めるなら、2台以上でRAID1(ミラーリング)構成を組むことを強くおすすめします。
  • 電源アダプター|ラズパイ本体とHDDに安定した電力を供給する専用品が必要です。電力不足は動作不安定の元凶になります。
  • OS起動ディスク|OSをインストールするためのmicroSDカード、もしくは信頼性を高めるための外付けSSDを用意します。
  • ケース|本体やストレージを保護し、放熱を助けるケースは必須です。複数のHDDを搭載できる専用ケースもあります。
  • LANケーブル|安定した通信のために、無線ではなく有線LANでの接続が基本です。

ソフトウェア|OSとNAS化ソフトの選定

ハードウェアを揃えたら、次は魂を吹き込むソフトウェアの準備です。OSとNAS管理ソフトウェアの2つが中心となります。

  • OS (Operating System)|「Raspberry Pi OS Lite (64-bit)」が最も一般的で推奨される選択肢です。GUI(画面表示)がなくリソース消費が少ないCUI版を選ぶのが安定動作の秘訣です。
  • NASソフトウェア|「OpenMediaVault (OMV)」がデファクトスタンダードです。Webブラウザから直感的に操作でき、市販NASのような感覚でユーザー管理や共有フォルダ設定、RAID構築が行える非常に強力なオープンソースソフトウェアです。

まとめ|あなたに最適なNASはどっち?

私がラズパイNASと市販NASの両方を見聞きしてきた経験から言うと、どちらか一方が絶対的に優れているわけではありません。あなたの目的や価値観によって、最適な選択は変わります。

ラズパイNASは、低コストで自分だけのデータ保管庫を構築し、その過程でサーバーやネットワークの知識を深めたいと考えるDIY精神旺盛な人にとって、最高の選択肢です。作る楽しみと運用する喜びは、市販品では味わえない大きな価値があります。

一方で、技術的な手間をかけずに、購入後すぐに安定したデータ共有環境が欲しい人、データの安全性に万全を期したい人、トラブル時のメーカーサポートを重視する人には、迷わず市販のNAS製品をおすすめします。この記事が、あなたのデータ管理方法を見直す一助となれば幸いです。

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