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FWaaSの読み方は?ゼロトラストを実現する中核技術を解説

草壁シトヒ
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現代のサイバーセキュリティ戦略を語る上で、「FWaaS」という言葉を避けて通ることはできません。このFWaaSが、企業のネットワークセキュリティのあり方を根本から変えようとしています。

私がこの記事で伝えたいのは、単なる用語解説ではありません。FWaaSが「ゼロトラスト」という現代のセキュリティモデルを実現するために、いかに中核的な役割を担うか、その本質を理解することです。この記事では、FWaaSの正しい読み方から、その仕組み、導入メリット、そしてSASEとの関係性まで、初心者にも分かりやすく解説します。

FWaaSとは?基本を徹底解説

FWaaSについて理解を深めるために、まずはその基本的な定義と読み方、そして従来のファイアウォールとは根本的に異なる仕組みを見ていきましょう。

FWaaSの読み方と正式名称

FWaaSの読み方は「ファイアウォールアズアサービス」です。これは「Firewall as a Service」という英語の頭文字を取った略称です。

「サービスとしてのファイアウォール」と直訳できるように、従来の物理的な機器(アプライアンス)として購入するファイアウォールとは異なり、セキュリティ機能をクラウド経由のサービスとして利用するモデルを指します。

FWaaSの仕組み|クラウドで提供されるファイアウォール

FWaaSが必要とされる背景には、従来のセキュリティモデルの限界があります。これまでは「城と堀」モデルが主流でした。これは、オフィスのネットワーク(城)の境界線に物理的なファイアウォール(堀)を設置し、内部を守る考え方です。

しかし、クラウドサービスの利用(IaaS, SaaS)やリモートワークが一般化し、守るべきデータや働く場所がオフィスの外に分散しました。この状況で従来のモデルを維持しようとすると、社外からの通信をすべて一度オフィスに戻して検査する必要があり、通信速度の低下や管理の複雑化を招きます。

FWaaSは、この問題を解決します。FWaaSは、プロバイダーが世界中に配置する「PoP(Point of Presence|接続拠点)」と呼ばれるデータセンターでセキュリティ機能を提供します。

ユーザーは、オフィス、自宅、外出先など、どこにいても物理的に最も近いPoPに接続します。通信の検査やポリシー適用は、すべてそのクラウド上のPoPで実行されます。これにより、通信をわざわざ本社に戻す非効率が解消され、どこからアクセスしても一貫したセキュリティが確保されます。

FWaaSが提供する主要なセキュリティ機能

FWaaSは、単にファイアウォールの機能をクラウドに移行しただけではありません。現代の高度な脅威に対応するため、多層的な防御機能が統合されています。

次世代ファイアウォール(NGFW)としての役割

FWaaSは、実質的に「クラウド提供型の次世代ファイアウォール(NGFW)」です。従来のファイアウォールが通信の送信元や宛先(IPアドレスやポート番号)だけを見ていたのに対し、NGFWは通信の中身まで深く検査します。

これにより、どのアプリケーションが使われているか(例|Dropbox、Microsoft 365など)を識別し、より詳細な制御ができます。

統合された高度な脅威対策

FWaaSプラットフォームには、これまで個別の機器で導入していたような、さまざまなセキュリティ機能が標準で統合されています。

  • URLフィルタリング|悪意のあるWebサイトや不適切なサイトへのアクセスをブロックします。
  • IPS/IDS(侵入防止・検知システム)|ネットワークへの攻撃パターンを検知し、ブロックします。
  • ATP(高度な脅威対策)|未知のマルウェアを隔離環境(サンドボックス)で実行し、脅威を検出します。
  • アプリケーション制御|アプリケーション単位での通信許可・不許可を制御します。
  • SSL/TLSインスペクション|現在主流となっている暗号化された通信(HTTPSなど)の中身を復号して検査します。

私が特に重要だと考えるのは、これらの機能を単一のサービスで利用できる点です。これにより、複数の機器を個別に管理する複雑さから解放され、セキュリティポリシーの統一が容易になります。

なぜFWaaSが必要?導入するメリットを解説

FWaaSを導入することは、単なる技術的な更新ではなく、コスト構造、運用体制、そしてビジネスの俊敏性(アジリティ)にまで及ぶ、大きなメリットをもたらします。

コスト構造の変化|CAPEXからOPEXへ

FWaaS導入の最大のメリットの一つは、コスト構造の変革です。従来は、高額な物理ハードウェアの購入費用(CAPEX|初期投資)が必要でした。

FWaaSはサブスクリプションモデルが基本です。これにより、セキュリティコストが予測しやすい月額・年額の運用コスト(OPEX)に変わります。高額な初期投資が不要になるため、導入のハードルが大きく下がります。

運用管理の劇的な簡素化

運用負荷の削減も、私が見逃せない大きなメリットだと考えています。物理アプライアンスの場合、ハードウェアの保守、ファームウェアの更新、セキュリティパッチの適用など、煩雑な管理作業が常に発生します。

FWaaSでは、これらのインフラ管理はすべてクラウドプロバイダーが担当します。IT管理者は、クラウド上の単一の管理コンソールから、全拠点のポリシーを一元的に設定・変更するだけです。これにより、ITチームは「機器の番人」から解放され、より戦略的なセキュリティ対策にリソースを集中できます。

セキュリティ体制の強化と一貫性の確保

FWaaSは、セキュリティレベルの均一化を実現します。オフィスでも、リモートワーク中の自宅でも、すべてのユーザーとデバイスに対して、場所を問わず同じセキュリティポリシーが一貫して適用されます。

リモートワーカーがセキュリティの甘い自宅ネットワークから直接クラウドサービスにアクセスするといった、従来のセキュリティギャップを解消できます。脅威情報もクラウド側で常に最新に保たれるため、新たな脅威にも迅速に対応できます。

ビジネスの俊敏性(アジリティ)向上

ビジネスのスピードに対応できる点も強みです。従来のモデルでは、新しい支社を開設したり、トラフィックが急増したりすると、物理機器の追加調達や設定変更に時間がかかり、それがビジネスのボトルネックになることがありました。

FWaaSはクラウドベースであるため、必要なリソースをオンデマンドで拡張できます。これにより、ビジネスの変化に迅速かつ柔軟に対応する俊敏性を獲得できます。

FWaaSとゼロトラスト|SASEにおける中核的役割

FWaaSを理解する上で最も重要な文脈が、「ゼロトラスト」と「SASE」です。FWaaSは、これらの現代的なセキュリティアーキテクチャを実現するための基盤技術です。

FWaaSとNGFWの違いを整理

ここで、FWaaSとNGFW(次世代ファイアウォール)の違いを明確にしておきます。この二つは対立する概念ではありません。

  • NGFW(次世代ファイアウォール)|アプリケーション識別やIPSなど、高度な「機能セット」を指す言葉です。物理アプライアンスの場合もあれば、仮想アプライアンスの場合もあります。
  • FWaaS|NGFWの機能を「どのように提供するか」という「提供モデル(デリバリーモデル)」を指す言葉です。

結論として、多くのFWaaSソリューションは「NGFWの機能をクラウドサービスとして提供するもの」と言えます。

SASEとゼロトラストの基盤技術

FWaaSは、「SASE(Secure Access Service Edge|サシー)」と呼ばれる新しいセキュリティフレームワークの中核コンポーネントです。

SASEとは、ネットワーク機能(SD-WANなど)と、クラウドネイティブなセキュリティ機能群(FWaaS、ZTNA、SWG、CASBなど)を、単一のクラウドサービスとして統合するアーキテクチャです。

このSASEアーキテクチャの中で、FWaaSはすべての通信を検査し、ポリシーを適用する「セキュリティエンジン」の役割を担います。

FWaaSが実現するのは、まさに「ゼロトラスト(何も信用しない)」の考え方です。従来の「城と堀」モデル(=一度中に入れば信用する)とは対照的に、ゼロトラストでは、すべてのアクセス要求を「信用せず」、都度検証します。FWaaSは、ユーザーがどこにいようと、どのクラウドにアクセスしようと、その通信を漏れなく検査することで、ゼロトラストの原則を実行する基盤となります。

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FWaaS導入時に考慮すべき点

FWaaSは多くのメリットを提供しますが、導入を成功させるためにはいくつかの点を考慮する必要があります。

ベンダー選定の基準

FWaaSはプロバイダーによって性能や機能が異なります。私がベンダー選定時にチェックすべきだと考えるポイントは以下の通りです。

  • PoPの拠点網|プロバイダーが世界中にどれだけ多くのPoP(接続拠点)を持っているか。PoPがユーザーの近くにあるほど、通信の遅延は少なくなります。
  • パフォーマンスとSLA|通信速度やサービスの稼働率に関するSLA(サービス品質保証)の内容を確認します。
  • 管理インターフェース|管理コンソールが直感的で使いやすいかは、日々の運用効率に直結します。
  • 連携機能|他のセキュリティツール(SIEMなど)やID管理システム(Azure ADなど)とスムーズに連携できるかを確認します。

潜在的な課題への対処

導入にあたっては、いくつかの潜在的な課題も認識しておく必要があります。

  • 遅延|理論上は遅延が減るはずですが、PoPの配置やネットワーク構成によっては、特定の通信で遅延が発生する可能性もゼロではありません。事前のテストが重要です。
  • ベンダーロックイン|一度特定のプロバイダーに移行すると、別のプロバイダーに乗り換えるのが難しくなる場合があります。契約内容や出口戦略を確認しておきます。
  • データプライバシー|通信データがどの国のPoPで検査・処理されるかを把握し、自社のコンプライアンス要件(GDPRや国内法など)を満たせるかを確認します。

まとめ

FWaaSは「ファイアウォールアズアサービス」と読み、単なるファイアウォールのクラウド版ではありません。これは、クラウドとリモートワークが前提となった現代のIT環境において、セキュリティのあり方を根本から変革する技術です。

FWaaSは、SASEアーキテクチャの中核としてゼロトラストセキュリティを実現します。コストをCAPEXからOPEXへと転換し、運用管理を劇的に簡素化し、場所を問わない一貫したセキュリティを提供します。

ネットワークセキュリティの未来は「As-a-Service」モデルにあります。FWaaSへの移行は、もはや選択肢ではなく、変化に対応し続けるための必須の戦略と言えるでしょう。

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