Raspberry Pi

ラズパイのルーター化で自宅ネットワークを強化!VPNと広告ブロックを実装する方法

草壁シトヒ
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自宅のネットワーク環境に満足していますか。市販のルーターでは物足りない、もっと自由にネットワークをコントロールしたい、そう考えたことはありませんか。私がそんな思いを抱いていたときに出会ったのが、Raspberry Pi(ラズパイ)を使ったルーターの自作です。ラズパイをルーター化することで、市販の製品を超える多機能でセキュアなネットワーク環境を、驚くほど低コストで構築できます。

この記事では、私が実践してきたラズパイのルーター化について、その魅力から具体的な構築手順、さらにはVPNサーバーや広告ブロックといった高度な機能の実装方法まで、余すところなく解説します。ネットワークの知識を深めながら、あなただけの最強のネットワーク環境を手に入れましょう。

ラズパイをルーターにする魅力とは?

Raspberry Piをルーターとして使用することには、大きな可能性があります。市販のルーターでは実現できない、自分だけのネットワーク環境を構築できるのが最大の魅力です。ここでは、そのメリットとデメリットを詳しく解説します。

メリット|高度なカスタマイズと多機能統合

私がラズパイルーターに感じる最大のメリットは、その圧倒的なカスタマイズ性です。オープンソースのソフトウェアを組み合わせることで、Wi-Fiアクセスポイント、DHCPサーバー、ファイアウォールなどを、自分の思い通りに細かく設定できます。

  • 高度な機能の統合|VPNサーバー(PiVPN)やネットワーク全体の広告ブロック(Pi-hole)、IoTデバイスの隔離など、市販品では難しい高度な機能を一台に集約できます。これにより、セキュリティと利便性を飛躍的に向上させられます。
  • 学習機会|ルーターを自作する過程で、ネットワークの仕組みやLinuxの操作を実践的に学べます。これは、ITスキルを向上させたい私にとって、非常に価値のある経験でした。
  • コスト効率|すでに持っているラズパイを流用したり、安価なモデルを選んだりすれば、高性能な市販ルーターよりも低コストで多機能な環境を構築できます。

デメリット|設定の複雑さと性能の限界

もちろん、良いことばかりではありません。ラズパイルーターには、乗り越えるべきいくつかの課題があります。

  • 設定の複雑さ|構築にはコマンドラインでの操作が必須で、ネットワークやLinuxの基礎知識が求められます。トラブルが発生した際も、自力で解決する必要があるため、初心者にとってはハードルが高いと感じるでしょう。
  • 性能の限界|特に古いモデルのラズパイでは、市販の高性能ルーターと比較して通信速度(スループット)や同時に接続できるデバイスの数に限界があります。
  • 安定性と自己責任|SDカードの寿命や熱対策など、安定した長期運用のためには工夫が必要です。メーカーのサポートはないため、全ての運用は自己責任となります。

ラズパイのルーター化に必要なもの

ラズパイルーターの構築を始める前に、基本的な知識と必要なハードウェアを揃えることが重要です。ここでは、ルーターの役割から、最適なラズパイモデルの選び方、必要な周辺機器までを解説します。

ルーターの基本的な仕組み

ルーターは、自宅のネットワークをインターネットに接続するための「関所」のような役割を果たします。具体的には、以下のような重要な機能を持っています。

  • DHCP|ネットワークに接続するスマホやPCに、IPアドレスというインターネット上の住所を自動で割り当てます。
  • DNS|「https://www.google.com/search?q=google.com」のようなウェブサイトの名前を、コンピュータが理解できるIPアドレスに変換します。
  • NAT|自宅にある複数のデバイスが、一つのグローバルIPアドレスを共有してインターネットにアクセスできるように、アドレスを変換します。
  • ファイアウォール|外部からの不正なアクセスを防ぎ、ネットワークの安全を守ります。

最適なラズパイモデルの選び方

どのラズパイモデルを選ぶかによって、ルーターの性能が大きく変わります。用途に合わせて最適なモデルを選びましょう。私がおすすめするモデルは以下の通りです。

データ項目Raspberry Pi 3 Model B+Raspberry Pi 4 Model BRaspberry Pi 5
CPU (コア数/クロック)クアッドコア 1.2GHzクアッドコア 1.5GHzクアッドコア 2.4GHz
RAM1GB2GB/4GB/8GB4GB/8GB
有線LAN速度 (内蔵)ギガビット (実測~300Mbps)ギガビット (実測~300Mbps)ギガビット (高速)
Wi-Fi規格 (内蔵)2.4GHz/5GHz 802.11ac2.4GHz/5GHz 802.11ac2.4GHz/5GHz 802.11ac
ルーターとしての適性基本機能/低負荷実用/中〜高負荷高性能/多機能

結論として、基本的なルーター機能であればPi 3B+やPi 4でも十分ですが、VPNや広告ブロックなどの高度な機能を快適に使いたいのであれば、処理能力が大幅に向上したRaspberry Pi 5が断然おすすめです。

必要な周辺機器

ラズパイ本体に加えて、以下の周辺機器が必要です。

  • 電源アダプター|モデルに合った、安定した電力供給ができる公式品や推奨品を選びます。
  • microSDカード|OSをインストールするためのメディアです。読み書き速度が速く、信頼性の高い製品を選びましょう。
  • USB-LANアダプター|ラズパイには有線LANポートが一つしかないため、ルーターとして使うには必須です。WAN(インターネット側)とLAN(自宅側)を分けるために使います。Pi 4やPi 5の性能を活かすなら、USB 3.0対応のギガビットアダプターを選びましょう。
  • スイッチングハブ|複数の有線デバイスを接続する場合に必要です。

【実践】ラズパイをルーター化する手順

ここからは、実際にラズパイをルーター化していく具体的な手順を解説します。Linuxのコマンド操作が中心となりますが、一つずつ丁寧に進めていきましょう。

OSのインストールと初期設定

はじめに、ラズパイにOSをインストールします。

  1. OSの書き込み|「Raspberry Pi Imager」を使い、microSDカードに「Raspberry Pi OS」を書き込みます。この時、SSHの有効化やユーザー名・パスワードの設定を済ませておくと、後の作業がスムーズです。
  2. 初回起動とアップデート|ラズパイを起動し、既存のネットワークに有線で接続します。ターミナルから以下のコマンドを実行し、システムを最新の状態に更新します。 Bashsudo apt update sudo apt upgrade

主要ソフトウェアの導入と設定

ラズパイをルーターとして機能させるには、3つの重要なソフトウェアをインストールし、設定する必要があります。

ソフトウェア名主な役割概要
hostapdWi-FiアクセスポイントスマホやPCがWi-Fiで接続できるようにします。
dnsmasqDHCP/DNSサーバー接続してきたデバイスにIPアドレスを割り当てます。
iptablesファイアウォール/NAT内部ネットワークからインターネットへの通信を中継し、セキュリティを確保します。

これらのソフトウェアは、以下のコマンドで一括インストールできます。

Bash

sudo apt install hostapd dnsmasq iptables

インストール後、それぞれの設定ファイル(/etc/hostapd/hostapd.conf, /etc/dnsmasq.conf など)を編集し、SSIDやパスワード、IPアドレスの範囲などを設定していきます。設定は複雑ですが、インターネット上にある多くの先人の知恵を参考にすれば、必ず設定できます。

ネットワークインターフェースの設定

ラズパイの内蔵Wi-Fi(wlan0)とUSB-LANアダプター(eth1など)が正しく機能するように設定します。

  1. IPフォワーディングの有効化|LAN側からWAN側へパケットが流れるように、IPフォワーディングを有効にします。/etc/sysctl.conf ファイル内の net.ipv4.ip_forward=1 の行のコメントを解除します。
  2. NATルールの設定|iptablesを使い、内部ネットワークの通信を外部(インターネット)に中継するためのNAT(IPマスカレード)ルールを設定します。このルールは再起動すると消えてしまうため、起動時に自動で読み込まれるように設定を保存する工夫が必要です。
  3. 静的IPアドレスの設定|Wi-Fiアクセスポイントとして機能させるwlan0インターフェースには、固定のIPアドレス(例|192.168.10.1)を割り当てます。これは/etc/dhcpcd.confファイルで設定します。

ラズパイを最強ルーターに!高度な活用法

基本的なルーター機能が完成したら、次はいよいよラズパイルーターの真価を発揮させる高度な機能を追加していきます。私が特におすすめする活用法を3つ紹介します。

VPNサーバーを構築して外出先から安全アクセス (PiVPN)

PiVPNというツールを使えば、驚くほど簡単に自宅にVPNサーバーを構築できます。これにより、外出先のフリーWi-Fiなどからでも、自宅のネットワークに暗号化された安全なトンネルを通ってアクセスできます。

自宅のファイルサーバーにアクセスしたり、安全にインターネットを利用したりと、活用の幅は無限大です。PiVPNはウィザード形式で設定が進むため、VPNの専門知識がなくても比較的安全に導入できます。外部に公開するポートを一つに絞れるため、セキュリティ向上にも大きく貢献します。

ネットワーク全体の広告をブロック (Pi-hole)

Pi-holeは、DNSレベルで広告やトラッカーをブロックするシステムです。これをラズパイルーターに導入し、ネットワークのDNSサーバーとして設定するだけで、Wi-Fiに接続されているすべてのデバイス(スマホ、PC、スマートTVなど)で広告が非表示になります。

ウェブページの表示が高速化されるだけでなく、悪質なトラッカーからプライバシーを守る効果も絶大です。さらに、先ほど紹介したPiVPNと組み合わせることで、外出先でもVPN経由でPi-holeの広告ブロックの恩恵を受けられます。これは、私がラズパイルーターを使っていて最も満足している機能の一つです。

IoTデバイスを安全に管理するハブとして活用

スマートホーム化が進む中で、セキュリティに不安のあるIoTデバイスが増えています。ラズパイルーターを使えば、これらのIoTデバイス専用のネットワークセグメント(区画)を作ることができます。

万が一、IoTデバイスが乗っ取られても、メインのネットワーク(PCやスマホが接続されているネットワーク)とは分離されているため、被害の拡大を防げます。ラズパイルーターを、家庭内ネットワークのセキュリティを統括するハブとして活用するのです。

運用で知っておきたいこと|性能・セキュリティ・安定性

自作したラズパイルーターを快適に、そして安全に使い続けるためには、いくつかの重要なポイントがあります。私が運用する上で特に意識していることを解説します。

性能はどれくらい?市販ルーターとの違い

ラズパイルーターの性能は、モデルや設定に大きく依存します。

  • スループット|Raspberry Pi 4の内蔵LANは、実測で300Mbps程度の速度が限界です。これは、ほとんどの家庭用インターネット回線では十分な速度ですが、ギガビット回線の速度を最大限に活かしたい場合は物足りないかもしれません。一方、Raspberry Pi 5ではこのボトルネックが解消され、より高速な通信ができます。
  • 同時接続数|一般的な家庭で使うデバイスの数(10台程度)であれば、Pi 4やPi 5で問題なく対応できます。ただし、多数のデバイスが同時に高負荷な通信を行う環境では、専用設計された市販の高性能ルーターに軍配が上がります。

セキュリティを強化するための必須設定

ラズパイルーターは、自分でセキュリティを管理する必要があります。最低限、以下の対策は必ず実施しましょう。

  • デフォルトパスワードの変更|初期設定のユーザー名とパスワードは必ず変更します。
  • SSHの保護|デフォルトのSSHポート番号(22)を変更し、パスワード認証を無効にして、より安全な公開鍵認証方式に切り替えます。
  • ファイアウォールの設定|iptablesを使い、必要な通信だけを許可し、不要な通信はすべて拒否する「デフォルトDENY」のポリシーを適用します。
  • 定期的なアップデートunattended-upgradesなどを利用して、セキュリティパッチが自動で適用されるように設定し、システムを常に最新の状態に保ちます。

長期運用を成功させる秘訣

24時間365日稼働するルーターは、安定性が命です。

  • SDカードの寿命対策|ログの書き込みなどで酷使されるSDカードは、故障のリスクがあります。OSをリードオンリーで運用したり、より耐久性の高いUSB接続のSSDから起動したりすることで、寿命を大幅に延ばせます。Pi 5ならNVMe SSDが使えるので、さらに高速で安定します。
  • 熱対策|高負荷が続くとCPUが発熱し、性能低下や不安定化の原因になります。ヒートシンクや冷却ファンを取り付けて、適切な熱対策を施しましょう。
  • 設定のバックアップ|万が一の事態に備え、完成した設定ファイルやシステム全体のイメージは定期的にバックアップを取っておくことが重要です。

よくあるトラブルと解決策

トラブルはつきものですが、原因を切り分けることが解決への近道です。

  • ネットに繋がらないpingコマンドで通信状況を確認したり、ip aでIPアドレスの割り当て状況を確認したりして、問題の箇所(物理的な接続、IP設定、DNS設定など)を特定します。
  • Wi-Fiが不安定|Wi-Fiの省電力機能が原因で接続が切れることがあります。設定で無効にしてみましょう。また、rfkillコマンドで無線デバイスがブロックされていないか確認します。
  • サービスが起動しないsystemctl status [サービス名]コマンドで、hostapdやdnsmasqなどのサービスのエラーメッセージを確認し、原因を調査します。設定ファイルの記述ミスが原因であることがほとんどです。

まとめ|ラズパイルーターで、あなただけの最強ネットワークを

ラズベリーパイを使ったルーターの自作は、市販品にはない無限の可能性を秘めています。コマンドラインでの設定やトラブルシューティングなど、確かに乗り越えるべきハードルはあります。しかし、その先には、自分の手で作り上げた、完全にコントロールされた快適で安全なネットワーク環境が待っています。

  • 学習とカスタマイズを楽しみたい技術志向の人
  • VPNや広告ブロックなど特定の機能を低コストで実現したい人
  • ネットワークの仕組みを深く理解したい人

もしあなたがこのような思いを持っているなら、ラズパイルーターの構築は最高のプロジェクトになるでしょう。この記事が、あなたのネットワーク環境を次のレベルへと引き上げる一助となれば幸いです。

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